国立研究開発法人 森林研究・整備機構 森林総合研究所
REDDプラス・海外森林防災研究開発センター

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リスクマップ作成

リモートセンシング技術を活用したリスクマップ作成

1. はじめに

気候変動により台風の巨大化や豪雨頻度・強度の増加、それにともない山地地形の国々では土砂災害の多発が懸念されます。開発途上国においては限られたリソースで災害対策を立てる必要があることから、災害の発生の可能性と人間の営みを勘案した危険度を評価しておくことが必要です。しかし、開発途上国では危険度評価を行うために必要となる空間情報が未整備のため危険度評価が困難です。また、地上での情報収集には限界があります。このため、人口分布や生態系の防災・減災機能を既存の衛星画像といったリモートセンシングデータからどのように抽出するかが課題であり、AI等最新技術を活用し信頼性の高い危険度把握の技術の開発が必要です。

本事業では、対象地域においてリモートセンシング技術および現地調査によって収集された既往の崩壊履歴および地形、地質、森林被覆、降水量等の各種情報をGIS上で重ね合わせ、解析処理することにより、対象地域の斜面崩壊リスクマップおよび森林管理マップを作成することを目的とします。

2. 衛星画像を用いた新規崩壊地の効率的検出手法の開発

本年度は、Google Earth Engineを用いて、衛星画像から低コストで効率的に新規発生崩壊地を検出する手法を開発しました。

はじめに国内での検証のため、平成30年7月豪雨によって甚大な被害を生じた広島県東広島市の山地斜面において、Sentinel-2が撮影した災害前後の画像から教師データとして崩壊地(新規発生裸地)のほか、農地・草地、市街地、森林、水域を画像データの任意のエリアより与え、ランダムフォレストによる土地被覆解析に基づく崩壊地の抽出を行いました。抽出結果に対して、実際の崩壊発生地(ポリゴンデータ)と比較して検出精度を検証しました。その結果、小規模な崩壊地の検出は難しいものの、崩壊面積が500m2以上の崩壊地については半分以上検出できていることが確認されました(図1、図2)。この検証結果は、精密な崩壊分布図を作成することは難しいものの、災害の現況把握として使用するに十分な精度を持つことを示しています。

図1. 日本国内(広島県)における新規崩壊地の抽出結果

図2. 日本国内(広島県)で実施された新規崩壊地の検出精度. 新規崩壊地の総数(上)および検出率(下)

国内の調査結果を踏まえ、ベトナムYen Bai省中西部を対象として、2014年から2018年の豪雨の際に斜面崩壊の発生が顕著に認められた崩壊エリア(図3)を同様の方法により抽出しました。抽出結果の検証は、災害前後の高解像度衛星Pleiadesのパンシャープン画像(解像度0.5m)から目視判読した裸地(崩壊地)と比較することにより実施しました(図3)。その結果、ベトナムにおいても日本と同様にSentinel-2の衛星画像では幅30m以下の小規模な崩壊の検出は難しいものの、解析例を増やして分類精度の向上を図ることにより、地域の山地災害の発生状況を把握することは十分に可能であると考えられました。

図3. ベトナムの検証エリアにおける土地分類結果.(Pleiades画像から判読した崩壊地は赤紫枠で示される)

一方、一連の解析を通してベトナムにおける崩壊地抽出の課題も確認されました。ベトナムでは衛星の撮影画像に雲が多いことが多いです。今回の解析手法では、災害前後のそれぞれ決められた期間内に撮影された複数のSentinel-2画像から雲のない範囲を合成(composite)し、差分をとって解析していますが、どちらかの画像に雲があると差分計算ができないため、その場合には解析不能エリアが出ます。解析不能エリアをなるべく生じさせないためには、解析期間を長く取るなどして雲のない画像を災害前後で合成し、解析する必要があります。また、ベトナムでは崩壊地での植生回復が早いと考えられ、災害後に撮影された衛星画像の解析期間を長く取りすぎると、植生の状態が変化して、崩壊地の検出精度が大きく低下する可能性があります。この問題を解決するためにはより高頻度に撮影が行われるPlanet衛星の導入や、雲の影響を受けないSAR系の衛星データから崩壊地の抽出する方法を検討する必要があると考えられます。