国立研究開発法人 森林研究・整備機構 森林総合研究所 REDD研究開発センター

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排出削減量の計測手法の開発

JCMにおいて企業等がREDDプラス活動を展開する場合、排出削減量のモニタリングコストをなるべく抑える必要があります。一方で、クレジットの信頼性を保証するため排出削減量の推定には一定の精度が求められます。さらに、地元住民や自治体と協力したモニタリングがREDDプラス活動の円滑な実施に不可欠です。

そこで、JCMでプロジェクトを実施する地域レベルに適した排出削減量計測手法の選択肢の中から国レベルの要件と森林生態系や社会環境など現地状況に応じて最適な組み合わせを選択する基準を示すとともに、選択した計測手法を適用・実施し参照レベルを推定する手順と地元住民や自治体への技術移転、連携確立の方法を実証的に示します。そのために、地域レベルでのモニタリングに必要な森林の区分、分類・検証用グランドトゥルースデータ数が排出削減量推定に必要となる森林の面積変化の推定に与える影響を調べ、地上調査の効率化のための調査手法を検討することにより、様々な環境条件下の森林において最適な排出削減量の計測手法の開発に取り組みました。これらの課題に取り組むため、途上国各国のREDDプラスへの関心や削減ポテンシャル、JCMに関する検討状況の他、森林生態系や社会的環境の違い、周辺国への波及効果などを総合的に勘案して、ペルー、ミャンマー、カンボジアを調査対象地としました。

ここでは、以下の3つのサブテーマを設けて技術開発および事例調査を行いました。

  1. 様々な環境条件下の森林における排出削減量の計測(モニタリング)手法の確立(ペルー)
  2. REDDプラスプロジェクトのモニタリングシステム設計手順の提示(ミャンマー)
  3. 実用的な計測結果の検証システムの構築(カンボジア)

1 様々な環境条件下の森林における排出削減量の計測(モニタリング)手法の確立 ~ ペルー

(1) はじめに

JCMにおけるREDDプラス活動実施による排出削減量を計測する場合、すなわち森林炭素蓄積の変化をモニタリングする場合、UNFCCCが国レベルのモニタリングで推奨しているのと同様に、リモートセンシングと地上調査を組み合わせた手法が有効であると考えられます。リモートセンシングを用いた森林観測では、生態域、季節性、地形などの自然環境や土地利用形態、制度などの社会環境の違いにより、異なる画像処理・分析手法が必要となります。そこで、本サブテーマでは2015年度にペルー共和国・農業灌漑省(MINAGRI)森林野生動物局(SERFOR)と共同研究契約(MOU)を締結し、標高の違いにより異なる植生タイプと林分構造をもち、地形の影響の大きいクスコ県のアンデス生態域から高地アマゾン生態域を対象として、排出削減量の計測手法の開発を行っています。表-1に計測手法の開発計画と具体的な活動内容を示します。2017年度は、標高帯や地形、人為撹乱を考慮した計測手法を検討するため、天然林3ヶ所、ユーカリ人工林29カ所でのプロット調査を実施しました。また、101点での衛星データ解析のためのグランドトゥルース調査を行い、衛星画像を用いてバイオマスおよびその変化推定のためのバイオマスクラス設定方法を検討しました。

表-1 前期3年間の計画と具体的な活動

2015年度 2016年度 2017年度
対象地におけるバイオマスの分布と土地利用分布の把握 バイオマス変化量抽出のためのバイオマスマッピング手法の検討 標高帯や地形、人為攪乱を考慮した計測手法の確立
・20か所でのプロット調査
・20か所でのプロット調査
・20か所でのプロット調査
・100点でのグランドトゥルース調査
・100点でのグランドトゥルース調査
・100点でのグランドトゥルース調査
・バイオマスと種組成に関する予備解析
・劣化した森林での種組成の変化の解明
・バイオマスと林分構造および種組成との関係の解明
・衛星画像を用いた対象地の土地利用に関する予備分類
・衛星画像によるバイオマスおよびその変化推定のためのバイオマスクラス設定方法の検討
・条件の異なる地域でのバイオマスマッピング手法の整理

(2) 劣化した天然林の群集組成変化とその要因解明

REDD研究開発センターでは、これまでにアジアおよび南米で様々な森林タイプでバイオマスに関する調査を実施し、REDDプラス実施のための地上調査方法論に関連する知見を集積してきました。たとえば、アジアでは、マレー半島およびインドシナ半島(タイ・カンボジア)での調査経験を通じて、熱帯降雨林や熱帯季節林のバイオマス推定のための地上調査方法を開発してきました。また、南米では、パラグアイにおいて乾燥が著しいサバンナ気候に成立する疎林を対象としたバイオマス推定調査を実施してきました。南米の森林に着目すると、アマゾンに代表される熱帯林から標高が上がるに従ってアンデス山脈の山岳林へと連続的に変化していきます。標高6,000mを越す山塊が連なるアンデス山脈では、熱帯林に接続する低標高域(標高1,000m付近)から樹木の生育が困難になる高標高域(標高3,500m付近)まで連続的に分布しており、その森林構造は多様です。また、古くから人為活動の影響を受けており、劣化した森林が多く分布していることが想定されます。本事業では、これまでの熱帯林や乾燥林での経験を元に、高標高域を含む山岳地域における森林炭素蓄積量の推定手法の確立を目指すこととしました。2017年度は2016年度に引き続き天然林の地上調査プロットの設定と毎木調査を行い、樹木群集組成に影響を及ぼす諸要因の特定を試みたほか、標高3000m付近に植栽されているユーカリ人工林を対象に、林齢と炭素蓄積量との関係を調べました。

調査対象は、ペルー共和国クスコ州の標高約600-3,500mの範囲の森林です。この範囲のエコリージョンは大きく「上部熱帯林(Selva Alta)」と「山岳林(Sierra)」に区分されます。対象地域に調査プロット(40m × 40mの方形区)を設定し、プロット内の胸高直径10cm以上の生立木を主体とする毎木調査を行うとともに、立地環境(地形や斜面位置)、自然撹乱(表土流亡など)および人為撹乱(火入れや作物の栽培など)の履歴を可能な限り記録しました。また、森林タイプを「撹乱を受けた一次林」(以下、一次林とする)、「二次林」および「人工林」に区分しました。2016年度までに46林分(一次林18林分、二次林27林分、広葉樹人工林1林分)を調査してきましたが、2017年度は3林分(一次林1林分、二次林2林分)の調査を実施しました。2016年度までと比べて大幅に調査林分が少ないのは、解析可能なデータセットがある程度収集できていることに加え、後述するユーカリ人工林の調査を重点的に実施したためです。

天然林プロットデータの解析では、地上部現存量以外に森林劣化の指標として注目している樹木群集組成に影響を及ぼす諸要因の特定を試みました。樹木群集組成にもとづく林分の序列化をNMDS(Nonmetric Multi-Dimensional Scaling、非計量多次元尺度法)を用いて行い、群集組成の指標としてNMDS第1軸のスコアを得ました。このスコアと林分の平均樹高との間には有意な相関がみられました(図-1)。この傾向は上部熱帯林と山岳林に共通する傾向でした。また、多変量解析手法をもちいて自然撹乱や人為撹乱が群集組成に及ぼす影響を調べたところ、上部熱帯林域では表土流亡、山岳林では農業用の小屋や歩道の存在から示される人為撹乱が群集組成に影響を及ぼしていることが示唆されました。以上のように、天然林の樹木群集組成の違いには自然撹乱および人為撹乱が影響しているがその程度は標高帯によって異なること、平均樹高が群集組成の違いを反映した簡易な指標として利用できる可能性があるということが示されました。

図-1 平均樹高と樹木群集組成の指標(NMDS1軸のスコア)との関係

(3) 林齢と施業履歴の異なるユーカリ人工林における炭素蓄積の解明

クスコ市周辺の標高3000~4000 mの地域には1970年代からユーカリ(Eucalyptus globulus)が導入され、薪炭材などに利用されています。本来、森林植生被覆が小さい地域ですが、今後、ユーカリ人工林の面積や蓄積が増大した場合、広域的な森林炭素蓄積評価においてユーカリ人工林の存在が無視できなくなる可能性があります。しかし、現在利用されているユーカリ人工林は10~20年生を中心に40年生まで様々な林齢にわたっているうえ、早期に伐採を繰り返して2代目、3代目造林地となっています。ユーカリ人工林の地上部現存量および炭素蓄積を評価するため、様々な林齢や施業履歴をもつ人工林29林分を対象に多点調査を行いました。

調査対象のユーカリ人工林の林齢は3~37年生です。林齢をはじめ過去の皆伐回数(何代目の造林地か)、植栽本数等の施業履歴を所有者等への聞き取りにより可能な限り収集しました。調査プロット(20m×20mの方形区)に植栽された5cm以上のユーカリについて全木の胸高直径と樹高を、また、萌芽などにより5cmに満たない個体については親株あたりの本数を記録しました。直径と樹高から既存のアロメトリー式により地上部現存量を推定しました。

図-2 ユーカリ人工林における林齢にともなう地上部現存量の変化
(曲線はミッチャーリッヒ式による回帰)

ユーカリ人工林の地上部現存量は24.5~392.7Mg/haであり、林齢とともに増加する傾向を示しました(図-2)。この傾向はミッチャーリッヒ式による非線形回帰によってあてはめることができました。また、サンプル数が十分ではないものの、10年生前後の傾向を見る限り2代目造林地、3代目造林地においても初代と同程度の地上部現存量を保持していることが示唆されました。

(4) 条件の異なる地域でのバイオマスマッピング手法の整理

バイオマス変化量抽出に向けたバイオマスマッピング手法を検討するため、8月から11月にかけて99地点でのグランドトゥルース調査を実施し、2016年度に調査した291地点での調査データと併せて解析に用いました。リマにあるSERFORの本局で調査の設計を行い、クスコにある地方事務所で車や作業員の手配、道路状況の確認など具体的な計画を立てて調査に当たりました。調査範囲はクスコ県のアンデス生態域と高地アマゾン生態域としました。調査地点では、2016年と同様に土地被覆を確認し、森林の場合には炭素蓄積量を推定するため、ビッターリッヒ法を応用したカウント木法による調査を行い、カウントされた立木については胸高直径と樹高を測定しました(図-3)。

調査結果をグランドトゥルース調査用に作成された専用のシートに記載し、調査後、野帳保存のためスキャナで電子ファイルに変換して両機関で共有するとともに、エクセルシートに入力し、データベース化しました。さらに、衛星画像の判読精度を向上させるために、各調査地点での土地被覆のグランドトゥルースの結果から判読カードを作成しました(図-4)。

図-3 グランドトゥルース調査の様子

図-4 衛星画像判読のための判読カード(アンデス山地林)

次に、条件の異なる地域でのバイオマスマッピング手法を整理するために、アンデス山地林と上部熱帯林に分けてマッピング手法を検討しました。マッピングの範囲は、Landsat画像のPath 4, Row 69の範囲としました。衛星画像としては2016年度と同様にLandsat衛星8号で2014年5月から9月の間に取得された4時期の画像を用いました。2016年度の機械学習法であるランダムフォレスト法と衛星画像の各ピクセルにおけるスペクトル特性に着目したスペクトルミクスチャー解析による分類を比較した結果から、分類手法としてはランダムフォレスト法を用いました。

アンデス山地林は非常にバイオマスの低い森林であり、また、まばらに分布しています。グランドトゥルース調査における簡易なバイオマス推定の結果を用いて、バイオマスの違いをどのように分類できるかを検討した結果、炭素蓄積量に換算して20Mg/haを閾値として炭素蓄積量を分類することが可能であることが明らかになりました(図-5)。ただし、炭素蓄積量が非常に小さいため、この閾値を用いて時系列の衛星画像の解析から森林劣化を抽出するのは困難です。

上部熱帯林においては、炭素蓄積量が150Mg/haを超える森林も見られ、林冠も閉鎖した森林となります。近年では上部熱帯林における森林劣化や果物のプランテーションのための小規模の森林減少が問題となっています。この上部熱帯林でアンデス山地林と同様に、グランドトゥルース調査における簡易なバイオマス推定の結果を用いて、バイオマスの違いをどのように分類できるかを検討しました。その結果、炭素蓄積量に換算して50Mg/haおよび150Mg/haを閾値として炭素蓄積量を分類することが可能であることが明らかになりました(図-5)。この場合、この閾値を用いて時系列の衛星画像の解析から炭素蓄積クラスの移動から森林劣化を抽出することが可能となります。

森林の生育条件の違いによりバイオマス量が大きく異なることから、それぞれの条件において最大のバイオマス量がどの程度であるのかを地上調査によって推定し、分類可能なクラスを設定する必要があります。この場合、ひとつのクラスの幅が50Mg/haより小さいと森林劣化を捉えるのは困難です

図-5 条件の異なる地域での異なる閾値によるバイオマスのマッピング