国立研究開発法人 森林研究・整備機構 森林総合研究所
REDDプラス・海外森林防災研究開発センター

文字サイズ

REDDプラスへの民間参画を促進するための海外イニシアティブは、大きく以下の表に示す3つに分類されます。

表1 REDDプラスへの民間参画を促進するイニシアティブのタイプ

各機関が担う役割 概要 代表的なイニシアティブ
スキームオーナー REDDプラスプロジェクトの登録、クレジット発行等を行う。

民間事業体は、登録プロジェクト内での活動、クレジット取引等によりREDDプラスに参画する。
・VCS(自主的市場に向けたクレジットを供給するスキームであり、早期からREDDプラス分野を対象にルール整備等を進めてきたデファクトスタンダード。)
資金・技術支援 民間事業体等が特定のスキームの下でREDDプラス活動を行う際に、資金支援を行う。資金支援対象の選定にあたっては、特定の基準を有していることが多い。

また、スキーム自体に対し、承認要件の策定等の技術的支援を行う場合もある。スキーム構築・運営の支援を通じて、これに参画する民間事業体を間接的に支援する。
・Altheria ecosphere(投資家からの出資を運用するファンド。森林減少・劣化抑制の取組に投資。投資対象は、VCSやCCBSの要件を満たしていることが求められる。)

・Governors' Climate & Forests Task Force(カリフォルニア州排出量取引制度が準国レベルのREDDプラスによるクレジットを対象に含める想定を示したことから、その技術要件の策定や、クレジット供給を目指す準国レベルの自治体への資金支援を実施。)
普及啓発 /
プラットフォーム
特定のREDDプラスの取組について情報を公開し、よりよいREDDプラスの取組を普及拡大することを目指す。

REDDプラスを実施している民間事業体が参画し情報共有を行うプラットフォームとしての役割を果たす場合もある。
・Code REDD(同機関が優良と考えるREDDプラスプロジェクト(VCS + CCBS認証取得が要件)について情報を公開、同プロジェクトから発行されるクレジットの購入促進に向けた宣伝を行う等により、各プロジェクトを間接支援。政策提言等も実施。)

1 スキームオーナー型イニシアティブ

(1) REDDプラスを含む森林保全等の緩和活動を認証する国際スキーム

① Verified Carbon Standard(VCS)

自主的炭素市場に向けたクレジット認証スキームであり、ルール・ガイドラインを提示したうえで方法論やプロジェクトの承認、クレジットの発行を行っています。2005年に設立。早期からREDDプラス分野を対象に含め、2011年にはケニアにおけるプロジェクトから世界で初めてREDDプラス由来のクレジットを発行する等、デファクトスタンダードとなっています。

② American Carbon Registry(ACR)

米国で最初の自主的なGHG排出量登録簿として、1996年に設立されました。GHG排出量の登録簿の管理・運営、自主的な認証基準や方法論の作成を実施しています。米国カリフォルニア州における排出量取引制度においても、参加企業はACR認証を取得したクレジット等を活用しています。

③ Plan Vivo

1990年からスコットランドで開発が始まりました、地域住民の生計向上や持続可能な土地利用、生物多様性・生態系サービスの保全を目指した取組を認証する枠組みです。これらを目的としたコミュニティによる取組について計画(plan vivo)を策定し、生態系サービスに対する支払い(PES)の仕組みを導入、その効果を定量評価するプロジェクトを認証しています。

表2 REDDプラスに関連する自主的認証スキームのプロジェクト件数、発行クレジット量

VCS ACR Plan Vivo
承認プロジェクト件数 1,409 216 14
  うち、REDDプラス等分野 140(約10%) 75(約35%) 13(約93%)
発行クレジット量 201,652,059 75,208,292 2,580,821
  うち、REDDプラス等分野 42,103,456(約21%) 31,130,538(約41%) 2,560,806(約99%)
備考
(REDDプラス等分野の整理、特徴等)
AFOLU分野
先進国(米国・豪州等)を含む
森林分野
米国内プロジェクトが大半
森林分野

(注)2017年3月時点の各スキームウェブサイト情報に基づく。

(注)森林関連分野については、区分がスキームにより異なる。それぞれの区分は備考欄に提示。

(2) REDDプラスクレジットを生み出すスキームにおけるセーフガードに関する要件

① VCS

VCSは、スキーム独自のセーフガードに関する要件を有していません。一方で、セーフガードに関する取組を担保するためにCCBSやSocial Carbon StandardとVCSとのダブル認証取得を推奨しており、これらの認証への申請と併せて使用可能なフォーマット等を整備しています。

② ACR

ACRでは取組の規模(プロジェクトレベル、もしくはプロジェクトをネスティングした準国レベル)に応じて、セーフガードに関する既存の国際的な基準を満たすことを要求しています。さらに、ACRとして、既存の国際基準に対し追加的に満たすべき要件を3点定めています。

③ Plan Vivo

Plan Vivoでは、そもそも、対象とする取組はPES等の実施を通じて現地住民に便益を及ぼすものであることが求められます。このため、取組に対する要件のあらゆる項目においてセーフガードに関連しうる規定が設けられています。

2 資金・技術支援型イニシアティブ

民間事業体等が特定のスキームの下でREDDプラス活動を行う際に、資金支援を行うイニシアティブがあります。これらは、資金支援対象の選定にあたり、特定の基準を有している場合があります。加えて、スキーム自体、もしくは途上国の行政機関等に対し、承認要件の策定等の技術的支援を行うイニシアティブも存在します。これらは、スキーム構築・運営の支援を通じて、これに参画する民間事業体を間接的に支援しています。

Tropical Forest Alliance 2020(TFA 2020)(森林減少を招かないサプライチェーンの構築を目的とする国際的な官民パートナーシップ。2012年結成)の加盟団体一覧を活用し、上記のような資金・技術支援型イニシアティブを把握したところ、TFA 2020の加盟団体のうち、資金・技術支援型イニシアティブは表5に示す3つでした。

表5 資金・技術支援型イニシアティブの一覧

イニシアティブ名 支援タイプ 主要拠点国 設立年 ウェブサイトの最終更新年 資金規模
資金 技術
33 Forest Capital - オランダ 2011年 2014年 不明
Althelia ecosphere - ルクセンブルク 2011年 2017年 2.1億米ドル以上
Governors' Climate & Forests Task Force アメリカ 2009年 2017年 約1,080万米ドル

(出典)各団体のウェブサイトを基に作成

(1) 各イニシアティブの概要

① 33 Forest Capital

オランダに拠点を置く33の投資家及び投資家グループで構成されている基金です。世界規模で熱帯林保全プロジェクトを開発することをミッションとし、REDDプラス等の仕組みによって収益を得ています。

これらのプロジェクトを支援するにあたって、投資指針やプロジェクト要件を有しているかは不明。

表6 33 Forest Capitalが支援しているREDDプラスプロジェクト一覧

プロジェクト名 プロジェクト
開始年
実施国 実施者 対象面積(ha) 排出削減量(tCO2) 認証
有無
クレジット発行量(tCO2) 支援規模
Ghana Sustainable Cocoa Project 不明 ガーナ ガーナ政府 約2.5万 不明 - - 不明
The CIKEL Brazilian Amazon
REDD APD Project
2008年 ブラジル CKBV Florestal Ltda 約2.7万 7,454,138
(2008~2017年)
VCS 3,284,853 不明

(出典)33 Forest Capital 及び VCS のウェブサイトを基に作成

http://www.vcsprojectdatabase.org/#/project_details/832

② Althelia ecosphere

現在4つの基金を運営する資産運用企業で、持続的な土地利用への転換に資金を提供し、自然資本の価値を反映した新たな環境資産を創出することによって地球上の経済と生態系を整合させることをミッションとしています。4基金の1つであるAlthelia Climate Fundは、2013年6月にConservation Internationalの支援を受けて設立されたもので、REDDプラスプロジェクトへの投資を行っています。2016年7月時点で、スウェーデン協会、欧州投資銀行(EIB)、Finnfund、オランダ開発金融公庫(FMO)等からの1億100万ユーロの出資表明を受けており、同基金による総投資表明額は約5,050万ユーロです*1。また、USAIDは同基金による資金調達に対して、最大1億3,380万米ドルの融資補償を表明しています*2

*1 (出典)Althelia ecosphere(2016)「Impact Report 2016」6頁

*2 (出典)USAIDウェブサイト

Althelia ecosphereは、資産運用を行うにあたって、ESG原則及び指針を有しています。この原則と指針は、国際金融公社(IFC)の「環境と社会の持続可能性に関するパフォーマンス基準」(2012年版)、及びEIBの「環境・社会の原則及び基準に関するステートメント」(2009年版)を参考に策定されたものです。特に、資金支援をしたREDDプラスプロジェクトについては、CCBSのゴールドレベルによる検証を受けることとされています。

表7 Althelia ecosphereのESG原則及び指針

表8 Althelia Climate Fundが支援しているREDDプラスプロジェクト一覧

プロジェクト名 プロジェクト開始年 実施国 実施者 対象面積(ha) 認証
有無
排出削減量
(t CO2)
クレジット発行量
(t CO2)
支援規模
Taita Hills Conservation and Sustainable Land Use Project 2014年 ケニア Wildlife Works 約20万 - 約520万
(見込み)
- 約10百万米ドル
Tambopata-Bahuaja REDD+ and Agroforestry Project 2010年 ペルー AIDER 約57万 VCS
CCBS
4,577,502
(2010~2019年)
1,077,052 約7百万米ドル
Cordillera Azul National Park REDD+ Project 2008年 ペルー CIMA 約135万 VCS
CCBS
15,752,683
(2008~2017年)
5,772,071 約8.55百万ユーロ
Guatemalan Caribbean Forest Corridor 2015年 グアテマラ FUNDAECO 約11万 - 約870万
(見込み)
- 約11.1百万米ドル
The Novo Campo sustainable cattle ranching programme 2014年 ブラジル ICV - 約10万 約910万
(見込み)
- 約11.5百万ユーロ

(出典)Althelia ecosphere(2016)Impact Report 2016. 及びAlthelia ecosphere、VCSのウェブサイトを基に作成
http://www.vcsprojectdatabase.org/#/project_details/832

③ Governors' Climate & Forests Task Force(GCF-TF)

2009年6月に結成された準国レベルの自治体による国際的なコンソーシアムで、低炭素型農村開発とREDDプラスを推進し、これらの活動と既存の温室効果ガス排出削減制度を結び付けるjurisdictionalプログラムの開発を目指しています。2008年11月にロサンゼルスで開催された「州知事世界気候サミット」において、米国、ブラジル、インドネシアの全9州(カリフォルニア州、イリノイ州、ウィスコンシン州、アマパ州、アマゾナス州、マトグロッソ州、パラ州、アチェ州、パプア州)の政府が気候政策や技術交流等に関する将来的な協力についての覚書に署名したことに端を発し、現在は9か国35州が加盟している。全加盟州の熱帯林面積は、全世界の熱帯林面積の25%以上に相当します。

結成当初は、米国カリフォルニア州が運営する排出量取引制度において準国レベルのREDDプラスクレジットの活用が検討されていたことから、その技術要件の策定や、クレジット供給を目指す途上国加盟州政府への技術支援・能力開発等を実施していました。現在は、そうした内容に限らず、2014年8月に発表した「Rio Branco宣言」に示される「2020年までに森林減少を80%抑制する」等の目標を達成するため、途上国加盟州政府のREDDプラス準備活動を支援している。こうした活動資金は、The David and Lucile Packard Foundation、Gordon and Betty Moore Foundation、ClimateWorks Foundation、及びノルウェー開発協力局(NORAD)からの拠出で賄われており、2009年から2015年6月までの累積拠出額は約835万米ドルとなっています。

また2013年6月には、FCPF、FIP、二国間・多国間等によるREDDプラスへの資金支援を補完し、途上国加盟州のREDDプラス準備活動に対する資金調達機会を提供するためのGCF Fund(GCFF)が設立された。同基金は、米国務省による150万米ドルの拠出を受けて設立されたもので、2014年10月にはUSAIDが95.5万米ドルを拠出しています。

さらに、2015年のGCF-TF年次総会においてノルウェー政府はGCFFに対する2,500万米ドルの追加拠出を発表しました。申請されたプロジェクトは表10に示す評価基準で審査され、承認された場合に資金支援が獲得できる仕組みです。なお、申請書の提出は、GCFFが認定する非営利NGO、大学等の研究機関、行政組織等の「認定機関」のみが行うことができ、途上国加盟州政府はGCFF認定機関と共同でREDDプラス準備活動を実施することとなっています。

表9 GCFF がこれまでに支援したREDDプラスプロジェクト一覧

表10 GCFFのプロジェクト申請書評価基準