平成27年度国際セミナー
「参照レベルから読み解くREDD+の未来」―2020年以降の枠組みを見据えて―
「参照レベルから読み解くREDD+の未来」―2020年以降の枠組みを見据えて―
全体概要報告
2016年1月28日、森林総合研究所の主催(事務局:REDD研究開発センター)、国際協力機構(JICA)、森から世界を変えるREDD+プラットフォーム、国際熱帯木材機関(ITTO)、地球環境戦略研究機関(IGES)の共催による標記セミナーを東京大学伊藤謝恩ホールで開催しました。標記テーマの下、COP21までの10年間になされたREDD+に関する議論とその結果を振り返り、REDD+ホスト国の参照レベルの準備状況や課題についての報告や、異なるスケール間の関連付けや一貫性確保などの主要課題の解決方法を探る討論、さらに2020年以降のREDD+の国際的な制度設計と国内体制整備をめぐる様々な課題について活発な議論が行われました。
開会セッション
主催者である森林総合研究所の沢田治雄理事長が、本セミナーの背景として、COP21で合意されたパリ協定を踏まえつつ、気候変動対策における温室効果ガスの吸収源としての森林保全・強化やREDD+ 活動の重要性を強調した。また、森林総合研究所REDDセンターの役割やオールジャパンでのREDD+推進を目的とした「森から世界を変えるREDD+プラットフォーム」による活動を紹介し、関係機関への謝辞を述べた。
次に、来賓を代表して林野庁沖修司次長が挨拶を行い、10年にわたる国際交渉を経てパリ協定でREDD+の実施と支援が明確に位置づけられたことを述べた。本セミナーが2020年以降のREDD+の展望を共有する場となることへの期待が示された。
最後に、森林総合研究所REDD研究開発センターの松本光朗センター長が本セミナーの趣旨説明を行った。本セミナーのテーマである参照レベルとは、排出削減量を評価するためのベンチマークとしての意味だけでなく、その国の政策や戦略が反映されたものであることが説明された。本セミナーでは、2020年以降を見据えたREDD+の未来について議論することを目的として、 REDD+に関するこれまでの国際交渉の経緯、各国による参照レベルの準備状況、今後のREDD+の課題であるプロジェクトレベルから国/準国レベルへの参照レベルのスケーリングについて議論する旨が説明された。
基調講演 : モデレーター 井上 泰子 (林野庁)
REDD+10年の歩みを振り返る
「REDD+の過去と未来 ー課題と可能性ー」 マリア・ホセ・サンサンチェス博士 (気候変動バスク・センター)
UNFCCC における REDD+の議論は、2000年のハーグ会合(COP6)において、GHG 排出抑制にかかる森林の役割について、初めて言及された時に遡る。その後、2005年のバリ行動計画(COP13)から、2015 年のパリ協定(COP21)に至るまでの様々な議論と合意を経て、気候変動対策の手段の一つとして、 REDD+実施の枠組みが形成された。これは国家森林モニタリングシステム(NFMS)、国家森林参照レベル(FRELs/FRLs)、国家森林戦略、セーフガード情報システム(SIS)という4つの基礎的要素により構成される。
パリ協定後の現在の重要課題の一つに、参照レベルが挙げられる。途上国のうち、既に 6カ国が参照レベルの提出と国際的評価を受けており、今年、新たな10カ国が参照レベルの評価を受ける段階にはいる。しかし、国によって参照するスケール(国/準国/実証事業レベル)、活動のスコープ(森林減少・劣化の抑制/持続的森林管理)、計測する炭素蓄積プールや期間等が異なる。今後、その一貫性を確保していくため、いかにして各国の参照レベルの調整と改善を行っていくかという、技術的にも難しい課題に直面している。
また、現在、60 カ国で進められているREDD+準備活動の進捗は、様々な段階にある。これは、一旦、体制が整えば終わるような直線的なプロセスではなく、準備、実施試験、フィードバックといったサイクルを繰り返しながら、漸進的に進められるものであり、常に調整・統合・改善を必要とする。各段階における資金供与のタイミングも重要であり、官民様々な財源を組み合わせた、効果的な資金メカニズムを構築していく必要がある。
また、変化がなければ、進歩もない。進歩するためには考え方を変える必要がある。REDD+とは、「考え方を変える」ための枠組みであり、その進化に伴い変化は可能である。
最後に、REDD+の未来について、多くの途上国が自主的に提出した約束草案 (INDCs)に基づき、GHG排出削減に貢献しようとしている。REDD+の準備状況、手段、優先順位などのアプローチは、国によって異なるが、目的は同じであり協調は可能である。
REDD+は、政府が総合的で持続的な土地利用計画を検討するための、最良のオプションでもある。今後、多くの国が準備フェーズから実施フェーズに進んでいくが、計画の早い段階から、異なる実施スケール間の整合性をいかに確保していくかについて検討しておくことが重要である。
パリ協定は、今後、合意された枠組み推進のために、各国の政治的支援と透明性確保のための排出削減算出原則と報告の必要性、資金メカニズム、市場の重要性を訴えている。
林野庁の井上泰子氏をモデレーターとして、質疑応答が行われた。REDD+準備活動への先進国の支援のあり方についての質問に対しては、REDD+はすべての途上国が参加可能な枠組みとして始まったが、実際には、ドナー国の支援対象に偏りがあり、最近では援助疲れも見えてきたことが問題である答えた。途上国は準備活動を通じて、外部資金から自国予算にシフトしていく必要があるが、GHG 削減は終わりのない取り組みであり、一部の国に支援が偏ることは、他の国で別の問題を発生させる危険性があると指摘した。
また、REDD+実施の資金源として、公的資金を補う新たなビジネススキームが必要だが、炭素市場が十分に機能していないことが民間企業の懸念になっていることについて、見解を求められた。これに対し、特に実施フェーズにおける市場の役割は重要だか、それだけでも不十分と回答した。官民様々な資金源の適切な組み合わせを考える必要があり、マルチセクターの協力が必要であると訴えた。民間企業にもパイロット活動に積極的に参加してもらい、斬新なビジネスモデルの構築が望まれるとした。
「FCPFカーボンファンドを通じた結果ベース支払いの制度設計と実施」 アレクサンダー・ロッシュ(世界銀行)
世銀は、持続的なランドスケープアプローチにより、GHG 排出削減を図るともに、農村の貧困削減と食料安全保障を実現する目的で、2つの基金(約16億ドル)を管理し、様々なREDDプラス活動を支援している。
世銀のビジネスモデルでは、まずFCPFの無償資金により、国レベルのREDDプラス準備活動(政策・実施体制整備等の能力強化) を支援し、環境が整いつつあるところから、プロジェクト・行政区画レベルの実証活動に資金援助を行い、排出削減支払い合意 (ERPA)に基づき結果払い支払いも行う。
現在、54カ国が国レベルの準備活動または実証活動を実施中であり、うち14カ国は、より大きな準国/行政区画スケールでのパイロット事業が計画されている。活動内容はマルチセクター(農業、エネルギー、交通、土地計画、鉱業、森林)にわたり、総合的なアプローチを図ろうとしている。
今後、国/準国レベルまでスケールアップしていくためには、健全なガバナンスと政治的リーダーシップ、セクター間調整、そして各レベルの利害関係者の関与が不可欠である。地域コミュニティを含めた利益分配システムの合意調整も行わなければならない。技術の役割も重要であり、手法の確立と普及のために継続的支援が必要である。また、長期的な結果ベース支払いのための資金源として、世銀の基金をテコとして、各援助国、その他の基金、民間投資を組み合わせた資金メカニズムの構築が必要である。
世銀の基金の支援を受けた後、GHG 削減にかかる結果ベース支払いの条件や炭素クレジット所有権の帰属に関する質問に対し、ロッシュ氏は、国レベルの取り組みの場合、 REDDプラス準備活動の一環で、実施国は排出削減・吸収をクレジット化・権利移譲を行うための法整備を行い、その行政能力があることを示す必要がある。また、炭素クレジットの所有権について一概には言えないが、炭素基金には、援助国資金や民間企業の投資も入っており、炭素排出削減支払い合意書(ERPA)の締結時の協議によって配分方法を決定する。
セッション 1 : 参照レベルから読み解くREDD+の到達点
「UNFCCC における参照レベル ー各国参照レベルの概要と分析ー」 淺田 陽子 (三菱 UFJ リサーチ&コンサルティング株式会社)
REDD+参照レベルは、REDD+活動の成果支払い、国内林業政策の効果を測る指標ならびに気候変動緩和への国際的な貢献度を示す指標として重要である。
各国の参照レベルは、UNFCCCに提出された後、専門家による技術的評価を経て確定される。その後、各国は、隔年報告書を通してREDD+の実施結果をUNFCCCに報告する。しかし、その検証及び成果に基づく支払いの詳細については未定である。UNFCCCの下では、国内の温室効果ガス(GHG)インベントリとの整合性の確保は求められるものの、参照レベルの設定方法については基本的なことのみが規定されている。
参照レベル設定のポイントは、①森林定義、 ②使用するデータ(年、サンプル数)、③算定対象(活動・炭素プール・排出源)、④設定アプローチである。
これらをどう考慮するかにより、参照レベルは大きく変わってくる。例えば、ブラジルが提出した参照レベルは、森林減少のみを対象としており、森林劣化による排出は計上していない。また、インドネシアが提出した参照レベルには、泥炭火災に伴う非 CO2 排出(CH4、N2O)が計上されていない。ただし、これらの課題は、今後、段階的に参照レベルを見直すことにより、改善されていくものと考えられる。
参照レベルについては、その他にも課題がある。例えば、施肥による排出を含めるかどうか、準国単位と国単位の整合性、モデルによる将来予測の妥当性の評価等である。また、REDD+の完全実施においては、成果に基づく支払いに係る炭素価格、国内における分配方式、二重計上の防止等も今度の課題である。
「インドネシアにおける REDD+と FREL」 ノフィア・ウィディヤニンティヤス (インドネシア環境・林業省)
インドネシアは、排出削減目標として、 2020 年までに 26~41%減を掲げている。排出量の大部分を占める LULUCF セクターの排出削減対策として、REDD+は最重要視されている。そのため、参照レベルの設定は、 REDD+を構築・実施するための重要な要素の一つである。
インドネシアは、2015 年 12 月に REDD+参照レベルをUNFCCCに提出した。参照レベルの対象活動は森林減少・森林劣化であり、炭素プールは地上部・地下部バイオマス及び土壌有機炭素を算定対象としている。算定アプローチは、森林減少・森林劣化による炭素蓄積量の変化及び泥炭の分解による排出を計上している。活動データは、森林 7分類、非森林16分類、合計 23分類の全国レベルの公的な土地被覆分類図に基づいている。排出係数は、国家森林インベントリの固定サンプルプロットのデータに基づき算出されている。これらのデータを用いて、1990年~2012年までの年間排出量を推定し、その平均値を採用して参照レベルを設定した。また、別途、2020年までの排出量の予測もしている。
なお、泥炭地の森林火災に伴う非CO2(CH4、N2O)の排出量は、現状では、信頼のあるデータが整備されておらず、不確実性が高いため、参照レベルには計上していない。
今後の課題として、プロジェクトレベルおよび州レベルと国レベルの参照レベルの整合性の確保、上述のデータ信頼性の向上、泥炭地火災による非 CO2排出の計上及び各組織間での協力・調整があげられる。
「カンボジアにおける FREL/FRL」 チビン・レン( カンボジア農林水産省)
カンボジアは、森林減少防止および森林劣化防止を対象としたREDD+活動を通して、国内の森林政策を強化し持続可能な森林経営に貢献することを目指している。そのため、REDD+準備活動として、REDD+国家戦略、国家森林モニタリングシステム、参照レベルについての取り組みを進めてきている。特に、セーフガード情報システムについては JICA の協力を得ながら準備を実施している。
参照レベルについては、国レベルのトップダウン式で設定しており、現在は政府の承認を待っているところである。これを 2016年2月にはUNFCCCに提出し、2016年に予定される参照レベルの技術的審査に間に合わせたいと考えている。
参照レベルは、2006 年、2010 年、2014 年の土地利用図(LANDSAT)を基に炭素蓄積量を計算し、それらの平均値をとって算出した。その際、森林減少のみを評価している。限られたデータの中でより保守的に参照レベルを設定するため、過去のトレンドからの算出ではなく平均をとる方法を採用している。今後は、4 年毎に見直しを図り、より精度向上や劣化等の別の活動も含める予定である。
参照レベルを設定するうえでの課題として、森林の定義やカテゴリが国とREDD+で異なることが挙げられる。
「コンゴ民主共和国における FREL の方法論」 フランソワ・カヤンベ (コンゴ民主共和国環境・自然保護・持続的発展省)
コンゴ民主共和国(以下、DRCと略する)では、次の COPに向けて参照レベルを開発しているところである。その方法論の特徴として、DRC は他国に比べて面積が大きいこともあり、まずは暫定的な措置として 3 つの州を対象に準国レベルの参照レベルの開発を試みたことが挙げられる。対象の州の面積は国土の 51%を占め、森林の被覆率が高く森林減少が深刻な地域である。
参照レベルの設定にあたっては、1990年、2010年、2014年の3時点で森林減少を評価した。その精度を上げるため、その他の年のデータを組み込むことや、森林減少に次いで深刻な排出源となっている森林劣化の評価も試みているところである。
排出係数については、国家森林インベントリによるデータを用いて設定している。森林インベントリの実施にあたっては、3 つの対象州において、4 つの森林タイプに階層化してサンプリングを行った。アロメトリ式については、Chave が開発した既存のものを利用しており、今後はその有効性について研究することが重要である。
今後、どのようなステップで参照レベルを改善していくのかという質問に対し、インドネシアおよびカンボジアから次の通り回答があった。
インドネシアは活動データに関する改善計画を有している。その際に重要になってくるのは、省庁間の連携である。近年、関係省庁の間で統合的な地図を作成することに合意がされた。これによって、より信頼性のあるデータを手に入れることができるだろう。排出係数については既にある程度データはそろっているが、引き続き人材育成を通してその調査方法等を改善していく予定である。一方、大きな排出源になっている泥炭地のデータの入手方法は課題となっている。国全体の政策の中で、REDD+も含めた林業セクターの政策をどのように開発とバランスよく進めていくかが信頼性のあるデータを入手する鍵になるだろう。
カンボジアは土地利用変化が非常にダイナミックに起きているため、現在の 3 地点の土地利用図だけで参照レベルを引く場合は保守的に平均で設定せざるを得ない。その改善のためには、より多くの地点の活動データを用意する必要があるだろう。また、 LANDSAT よりも高解像度の画像の利用も検討している。排出係数に関しては、現時点では NFI はまだ実施されていないが、2017 年にデモンストレーションとして始まることが期待されている。これによって、2021 年以降には現行のゲインロス法からストックチェンジ法で炭素蓄積が把握でき、より信頼性のあるデータを入手できるであろう。
セッション 2 : 2020 年以降へのチャレンジ ーREDD+とスケーリングー
「民間セクターの活動を最大化するために ープロジェクトスケーリングのノウハウー」 ナオミ・スウィッカード (Verified Carbon Standard)
パリ協定で資金についての文言が組み込まれたことを受け、REDD+の資金における民間資金の重要性を示した。また、炭素市場において REDD+がオフセットの選択肢の一つとして拡大していくことが期待されている。
しかし、民間セクターが REDD+活動を実施する際に、プロジェクトレベルと国/準国レベルの整合性は重要な問題となる。その整合性を確保する方法として、VCSは「ジュリスディクションおよび入れ子の REDD+ (JNR)」スタンダードを設定した。その方法には次の 3 つの選択肢がある。① 地方自治体固有の空間明示的な参照レベルを設定しプロジェクトに切り分ける方法、 ②国レベルの参照レベルに準拠したルールに従ってプロジェクト固有の参照レベルを使用し調整する方法、③地方自治体レベルの参照レベルをそのまま使用する方法である。
しかし、それぞれの方法には長短がある。 ①の場合、地方自治体の中でのプロジェクトのパフォーマンス評価が容易である一方、モデル予測が複雑であったり議論を呼ぶ場合がある。②の方法は、明瞭な指針がある一方で、異なるスケール間での調整が求められる。③の場合、単純であるが各プロジェクトのパフォーマンス評価が難しい。
パリ協定において民間セクターの重要性について言及され、今後もプロジェクト活動が促進されていくことが期待されるが、プロジェクトレベルと国/準国レベルの一貫性確保という課題はリスクを伴っている。これは、同時に、地方自治体にとってもリスクとなりうる。その対策として、INDCs への関連性も明確に示すような各セクターが協力するメカニズムづくりが望まれる。
国およびプロジェクトレベルに対し、どのような資金を用いて投資すべきかという質問があった。これに対し、国レベルではセーフガードなどの国による活動、プロジェクトレベルでは地域住民への対応などの活動が行われ、レベルによって有意な活動が異なることが説明された。その上で、それぞれの活動に対してどのような資金で投資を行うか検討していくことが必要であり、今後も議論が必要であることが指摘された。
「参照レベル及び森林モニタリングにおけるスケーリングの課題 ~複数国の事例から~」 鈴木 圭(日本森林技術協会)
日本森林技術協会は JICA のプロジェクトを通して、様々な国で参照レベルの設定に携わってきた。そこで得られた知見として、参照レベルは国によって異なるスケールで設定されているが、その一貫性を確保する方法として、スケールアップはもちろんのことスケールダウンもありうるという印象を受けている。例えば、ベトナムでは様々なスケールの参照レベルが設定されているが、そのトレンドは省によって大きく異なる。そのため、参照レベルのスケールをどのように設定すれば、適切な利益分配ができるのか考えていく必要があるだろう。
また、2020年以降は、参照レベルを設定した後も、継続的な改善やモニタリングが必要であるという議論になることが予想される。その際に重要になってくるのは、中央政府と地方政府がデータ入手のために協力しあうことができるシステム作りである。ベトナムでは、中央政府が 5 年に一回土地利用図を更新する一方、省政府はコミューンレベルのレンジャーの協力を得ながら毎年地図を更新している。2 種類の地図をうまく補完的に利用することが求められるだろう。インドでは中央と地方のデータの齟齬が見受けられ、まだ課題を抱えている。
「インドネシア、ゴロンタロ州における REDD+ プロジェクトにおけるスケーリングの考え方」 矢崎 慎介 (兼松株式会社)
兼松株式会社は、2011年からインドネシア ゴロンタロ州 ボアレモ郡において、日本国政府の補助金を用いて REDD+実証活動を実施している。プロジェクトの参加者は兼松の他にボアレモ郡政府、パナソニックゴーベルグループ社である。活動としては、 MRV とドライバーであるコーン栽培のための焼畑の代替生計手段となるカカオ栽培の奨励である。省レベルで既に作成された地図を利用して、森林減少を評価した参照レベルを設定した。カカオ栽培奨励に関しては、高品質のカカオを栽培するために研修を開催することや、日本のチョコレートメーカーへのバリューチェーンを構築したりした。2011年のプロジェクト開始から焼畑による森林減少がストップしたと想定した場合、クレジットは2030年までで86,520t-CO2eqになると予想される。今後は、同じ MRV システムを利用して、ボアレモ郡のプロジェクトレベルをゴロンタロ州のサブナショナルレベルにスケールアップしたいと考えている。
「ラオス国ルアンプラバン県における焼き畑抑制による REDD+プロジェクトの紹介」 天野 正博 (早稲田大学)
ラオスのルワンプラバン県ポンサイ郡にある村落群(HK-VC)にて、2014 年から環境省のJCM REDD+プロジェクトを実施している。本プロジェクトは、2011~2013 年に REDD+準備のために実施された JICA プロジェクトを経て、REDD+本格実施のために動いている。プロジェクト活動は、当該地域の森林減少のドライバーである焼畑を止めるための農業技術や他の生計活動を導入等である。また、住民参加型の炭素モニタリングや参照レベルの設定を行っている。当初は、炭素モニタリングを通して、住民が森林減少対策の効果を認識し、森林保全が促進されることを期待していた。しかし、地域によっては生計手段が焼畑に限られる場合があり、炭素だけでなくそのような地域性も考慮しなければいけないことが明らかになった。そこで、住民が気軽に相談できる窓口を設置し、炭素モニタリングに加えて、REDD+活動や住民参加についてもプロジェクトを通してモニタリングしていくことにした。
参照レベルについては、村レベルから郡・県レベルにスケールアップする予定である。その際、地域によるコストや活動の違いが参照レベルに影響することが想定される。そのため、モニタリングをしつつ、参照レベルのスケーリング方法を検討することが求められる。
ラオスの事例に対して、地域住民からの情報収集や参照レベル設定に関する現地の協力関係、参照レベルのスケールアップについて質問があった。
まず、情報収集については、スウェーデンの知見を参照しつつ地域常駐型システムを導入し、今後のスケールアップにも対応できるような情報収集システムを構築している。一方、参照レベルについては、炭素蓄積量の把握が難しくスケールアップが困難なため、群レベルでは活動を評価対象とし県レベルで参照レベルを設定する方法を検討していることを述べた。
また、スケールアップの際に、アクティビティデータと排出係数のどちらを一致させるのが難しいと考えるかという質問に対して、鈴木氏はアクティビティデータはより劇的に変化するため一致が困難であると答えた。矢崎氏は相手国が用意したデータを使用した場合には、それほど困難を伴わ
ないだろうと述べた。
パネルディスカッション:パリ協定後の REDD+ の未来
-マ・ハンオク (国際熱帯木材機関)
パネリスト :
-マリア・ホセ・サンサンチェス (気候変動バスク・センター)
-宍戸 健一(国際協力機構)
-ナオミ・スウィッカード ( Verified Carbon Standard)
-ノフィア・ウィディヤニンティヤス(インドネシア環境・林業省)
-平田 泰雅 (森林総合研究所)
パネルディスカッションのテーマとして、次の 3 点が示され、各パネリストは、それぞれ任意のテーマを取り上げ意見を述べた。
- パリ協定における REDD+の位置づけをどのように評価するか。また、INDCにおける REDD+をどのように評価し、今後の方向性をどのように考えるか。
- 国際機関による REDD+の資金は十分に供給されているか。
- 参照レベル設定の際の課題は何か。
まず、サン・サンチェス氏は、パリ協定によって REDD+の位置づけが明確になり、森林セクターによる気候変動対策への貢献をより広い視野と長い時間軸で考えられるようになったと評価した。今後は、森林セクターに限らず、ランドスケープレベルによる管理が必要になると提言した。また、同様にパリ協定によって、これまで REDD+に欠けていた資金に焦点があてられたと評価した。その上で、REDD+の資金が十分でなく民間資金を含めた多様な資金源が必要であること、そのために民間資金の調達と収益確保の方法に関する検討が必要であるこ とを指摘した。
また、up-front payment(準備・実施活動に対する前払い)に関する会場からの質問について、これまで実証活動を対象としてup-front paymentと成果に基づく支払いまでにギャップが発生していたが、ロッシュ氏の講演にもあった通り、FCPFは実施から成果までの全体を通して支払いを行うようになっていることを述べた。
JICAの宍戸氏は、JICAが支援しているベトナムの REDD+準備活動を紹介し、国際機関による REDD+の資金が供給されているという見解を述べた。また、民間資金の重要性についても触れた。特に、地域社会の生計活動がドライバーとなっている場合、その対処は REDD+活動の持続性のためには重要であり民間投資が求められるとの見解を示した。さらに、日本国内おける民間セクターや市民社会との協働として、森林総合研究所とJICAが共同で事務局を務める「森から世界を変える REDD プラットフォーム(以下、プラットフォーム)」を紹介した。
ウィディヤニンティス氏は、まずパリ協定で途上国・先進国の役割についても明言されたことを評価した。その上で、今後も REDD+の準備活動が続いていくなかで、継続的に先進国から資金が投入されることへの期待を示した。次に、国際機関からの資金が十分であるものの、国内でどのようにそれらの資金を配分するかという問題があることを挙げた。最後に、参照レベルの設定にはデータの透明性や整合性などの確保が課題であるということを強調した。参照レベルを設定する際に森林火災を考慮するのかという会場からの質問に対しては、火災面積やその排出量などに関する信頼性を確保する取り組みを進めていることが説明された。
スウィッカード氏は、民間セクターという立場から資金についての見解を述べた。まず、異なる活動スケールや多様なアクターが協働するようなメカニズムづくりの重要性を指摘した。また、そのようなメカニズムづくりのための資金として、民間セクターからの投資の可能性について言及した。また、今後の展望として、REDD+をより広いランドスケープレベルで捉えることを提案した。森林減少・劣化の最大のドライバーは農業セクターであり、森林セクターだけでなくより広いスケールで問題に取り組むことが求められる。会場からは、スケール横断的な利益分配に関する質問が投げかけられた。国/準国レベルからプロジェクトレベルへの利益分配という課題に加えて、 INDCにおける国レベルでのクレジットの取引についても検討が必要であることを指摘した。特に、途上国にとって他国との取引にどのようなインセンティブがありうるのかという点は、今後の議論が待たれると述べた。
平田拠点長は、参照レベルの信頼性、スケーリング、活用について言及した。まず、いかに参照レベルの信頼性を高めるかが REDD+の成功のカギであると述べた。カンボジアの場合、森林の定義が変更されたため森林面積も変化し、一貫性や信頼性の確保に困難が生じたことを紹介した。また、スケーリングについては、スケールアップとスケールダウンという 2つのオプションを比較した。プロジェクトレベルからのスケールアップは、複数のプロジェクトで異なる参照レベルを設定している場合は、その調整に困難が伴う。一方、国レベルからのスケールダウンは、プロジェクトのパフォーマンスを過小評価する可能性があることを指摘した。最後に、今後の REDD+本格実施を見据えた提言があった。参照レベルを検討する際には、プロジェクトがない場合の予測ライン(参照レベル)とプロジェクトシナリオを示す排出量の実測値ラインの 2 本のラインを考慮する。プロジェクト事業者は、プロジェクトにおける資金コストなどを考慮しつつ、実測値ラインすなわちプロジェクト目標を設定すると考えられる。その際に、参照レベルをいかに活用するかということは、今後意識されていくべきで あると述べた。
閉会セッション:まとめ
森林総合研究所松本光朗 REDD 研究開発センター長が、今回のセミナーの各講演内容の総括を行った。これまでの経緯から、REDD+の方法論などは一直線に進むのではなく、“行ったり来たり”を繰り返しつつ進められてきたことを引き合いに、今回のセミナーもそのような REDD+実施のための“行ったり来たり”を促進する機会となること、今後も継続的な議論が続けられることへの期待を示し、セミナーを締めくくった。
- 開催日時
- ~
- 意見交換会:18:30~20:30
- 会場
- 東京大学伊藤国際学術研究センター 伊藤謝恩ホール
- 東京都文京区本郷 7-3-1
- 開催規模
- 約200名
- 使用言語
- 英語/日本語(同時通訳)
- 参加費
- 無料
- 主催
- 森林総合研究所
- 共催
- 国際協力機構(JICA)、森から世界を変えるREDD+プラットフォーム、国際熱帯木材機関(ITTO)、地球環境戦略研究機関(IGES)
- 後援
- 林野庁、外務省、経済産業省、環境省、日本森林学会、日本熱帯生態学会、日本リモートセンシング学会、日本写真測量学会
- お申し込み
- 参加お申し込みフォーム
趣旨
REDD+は、2007年のCOP13バリ会合以降、8年間にわたりUNFCCCの下での議論が続けられてきました。近年では、いくつかの国が森林参照排出レベル及び/もしくは森林参照レベル(参照レベル)に関する報告を条約事務局に提出するなど、UNFCCCの下でのREDD+はその実施に向けて着実に歩みを進めています。UNFCCCにおける参照レベルとは、REDD+活動による二酸化炭素排出削減量を評価するためのベンチマークですが、より広義には、各国の森林関連の活動を通した気候変動緩和へのパフォーマンスの評価と関連します。つまり、参照レベルは、各国の森林定義、森林減少・劣化の要因、今後の土地利用政策および森林保全政策など多様な要素を踏まえて設定されます。したがって参照レベルを読み解くことは、REDD+に取り組む途上国の様々な課題とその対処の理解や、国際社会によるより効果的なREDD+の制度設計への示唆につながります。
一方、このようなUNFCCCの下での国・準国レベルの取り組みと同時に、自主的な認証メカニズム等を活用したプロジェクトレベルの取り組みも進められていますが、各国はこれらプロジェクトレベルの取り組みと国・準国レベルの取り組みとをいかに関連づけるかという課題を抱えています。参照レベルはその根幹となる課題であり、この課題を参照レベルの視点から検討することは、今後民間セクターによるREDD+への貢献が広がる契機となることが期待されます。
本セミナーでは、COP21までのREDD+や土地利用に関する国際的な動向について情報共有し、ホスト国各国の参照レベルに関する取り組み状況や課題についての理解を深めるとともに、2020年以降のREDD+の国際的な制度設計と、国内体制整備をめぐる様々な課題について議論します。
プログラムと発表ファイル
時間 | 氏名 | 所属 | プログラム | 報告 |
---|---|---|---|---|
10:00 | 開会セッション | |||
10:00 - 10:30 | 沢田 治雄 | 森林総合研究所 理事長 | 開催挨拶 | 議事録 |
沖 修司 | 林野庁 次長 | 来賓挨拶 | 議事録 | |
松本 光朗 | 森林総合研究所 REDD研究開発センター長 | 開催趣旨説明 | 議事録 | |
10:30 - 11:20 | 基調講演 : REDD+10年の歩みを振り返る モデレーター : 井上 泰子 (林野庁) | |||
マリア・ホセ・サンサンチェス | 気候変動バスク・センター | REDD+の過去と未来 -課題と可能性- | 議事録 | |
質疑応答 | ||||
11:20 - 12:00 | [ テレビ会議 ] | |||
アレクサンダー・ロッシュ | 世界銀行 | FCPFカーボンファンドを通じた結果ベース支払いの制度設計と実施 | 議事録 | |
12:00 - 13:00 | 昼休み | |||
13:00 - 14:20 | セッション1 : 参照レベルから読み解くREDD+の到達点 モデレーター : 平田泰雅 (森林総合研究所) 導入・スピーカー紹介 |
|||
淺田 陽子 | 三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社 | UNFCCCにおける参照レベル -各国参照レベルの概要と分析- | 議事録 | |
ノフィア・ウィディヤニンティヤス | インドネシア環境・林業省 | インドネシアにおけるREDD+と参照レベル | 議事録 | |
チビン・レン | カンボジア農林水産省 | カンボジアにおける参照レベル | 議事録 | |
フランソワ・カヤンベ | コンゴ民主共和国環境・自然保護・持続的発展省 | コンゴ民主共和国における参照レベルの方法論 | 議事録 | |
質疑応答 | ||||
14:20 - 15:00 | コーヒーブレイク&ポスターセッション | 15:00 - 16:20 | ||
セッション2 : 2020年以降へのチャレンジ -REDD+とスケーリング-
モデレーター : 鷹尾 元 (森林総合研究所) 導入・スピーカー紹介 |
||||
ナオミ・スウィッツカード | Verifield Carbon Standard | 民間セクターの活動を最大化するために -プロジェクトスケーリングのノウハウ- | 議事録 | |
質疑応答 | ||||
鈴木 圭 | 日本森林技術協会 | 参照レベル及び森林モニタリングにおけるスケーリングの課題 -複数国の事例から- | 議事録 | |
矢崎 慎介 | 兼松株式会社 | インドネシア、ゴロンタロ州におけるREDD+プロジェクトにおけるスケーリングの考え方 | 議事録 | |
天野 正博 | 早稲田大学 | ラオス国ルアンプラパン県における焼き畑抑制によるREDD+プロジェクトの紹介 | 議事録 | |
質疑応答 | ||||
16:20 - 17:20 | パネルディスカッション : パリ協定後のREDD+の未来
モデレーター : マ・ハンオク (国際熱帯木材機関) パネリスト : - マリア・ホセ・サンサンチェス(気候変動バスク・センター) - 宍戸 健一 (国際協力機構) - ナオミ・スウィッツカード (Verifield Carbon Standard) - ノフィア・ウィディヤニンティヤス (インドネシア環境・林業省) - 平田泰雅 (森林総合研究所) |
議事録 | ||
17:20 - 17:30 | まとめ 閉会 松本 光朗 (森林総合研究所) |
議事録 |
ポスターセッション
本セミナーでは、会場の一画にポスター展示スペースを設けます。コーヒーブレイクの際に来場者の目につきやすい場所を用意し、ポスター展示だけでなく、コアタイムでの口頭説明・名刺交換や、資料の設置・配布を行えるようにいたします。
REDD+や森林保全の取り組みを広く紹介する絶好の機会になります。是非参加をご検討ください。
【ポスターセッションに関するお問い合わせ先】 公開セミナー運営事務局 公益財団法人 国際緑化推進センター(担当:高橋・佐野) TEL:03-5689-3450 FAX:03-5689-3360 E-mail:redd-plus@jifpro.or.jp