パリCOP21: REDD+に関連する議論の概要
林野庁計画課海外林業協力室 課長補佐 井上泰子
1. 概要
11月29日(日)から12月13日(日)未明にかけて、フランス・パリにおいて国連気候変動枠組条約の第21回締約国会合(COP21)が開催され、関係各省と共に林野庁からは沖次長をはじめ5名の職員が出張し、2020年以降の気候変動対策の法的枠組に、森林分野の役割やその重要性が適切に位置づけられるよう、国内外の関係者の支援を受けつつ、関係各国と協力し対応しました。12月12日に新たな法的枠組みである「パリ協定」が採択されましたところ、REDD+に関連する主な議論の経緯と結果の概要についてご報告します。
2. 主な結果
「パリ協定」及び附属するCOP決定においては、REDD+に関連して主に以下の内容が含まれました。これらにはわが国の意見も多く反映されています。
- パリ協定5条2項-各締約国に対し、REDD+等の途上国の森林保全を推進するための政策アプローチを、実施し支援するための措置を奨励することが規定されました。
- パリ協定6条2項・3項-「協力的アプローチ」による緩和の成果を国際移転する仕組みにより、約束草案の達成に使用しうることが明記され、わが国が推進するJCMの活用が可能であることが確認されました。また、同条4-7項に「国連管理型メカニズム」、同条8-9項に「非市場アプローチ」が盛り込まれました。
- パリ協定前文第12段落-「吸収源・貯蔵庫の保全と強化の重要性」が盛り込まれました。
- パリ協定に関するCOP21決定パラグラフ55-REDD+、JMA(適応と緩和の共同アプローチ)や付随する非炭素便益への二国間、緑の気候基金を含む多国間、官民、その他代替資金(市メカ等による)の調整と確保の重要性の確認が盛り込まれました。
このほか、SBSTA42で合意されたREDD+に関連する残された3課題がCOP決定として採択され、また資金のための常設委員会(SCF)、緑の気候基金(GCF)に関するCOP決定にREDD+に関連する作業計画等が盛り込まれました。
3.交渉の主な経緯
(1) ADPの設置から2015年10月までの将来の枠組に関する交渉経緯
2011年に南アフリカ共和国・ダーバンで開催されたCOP17において、将来の枠組みに関して、法的文書を作成するためのプロセスである「ダーバン・プラットフォーム特別作業部会(ADP)」が設置され、2015年までに京都議定書の後継となる法的枠組みに合意することをめざし、2012年から交渉が行われてきました。
2014年にペルー・リマで開催されたCOP20において採択された「気候行動のためのリマ声明」に添付された「新たな枠組みの交渉テキスト案の要素」について更なる検討を行うことが決定されました。この「要素」においては、REDD+は「土地利用」または「土地利用及び森林」に含まれるものとして取り扱われる方向性が示されていました。
これをベースに、昨年2月、6月、8-9月にADP会合が開催され、10月5日に共同議長提案として発表された20ページからなる法的合意案「共同議長提案文書」においては、「REDD+」の文字は消えていました。これは、REDD+については、6月に開催されたSBSTA42で3つの決定案を含めて計16の決定文書からなる方法論のガイダンスの検討が終了しており、あえて法的合意に位置付けなくともこれらの一連のCOP決定に従って実施することは可能である、との意見に沿うものでした。
その後10月に開催されたADP2-11会合においては、各国の立場が十分に反映されていないとの意見があり、各国が必須と考える要素を追加することとなりました。この結果、各国からの126の提案を盛り込んだ51ページの法的合意及びCOP決定案が作成されました。REDD+については、パナマが代表する熱帯雨林諸国連合(CfRN)をはじめとする途上国グループが、REDD+メカニズムについての独立した条文や、前文、資金等の項目にREDD+に関する要素が入れることを提案し、「2020年以降の枠組みにおいてもREDD+の実施、支援が継続するためには法的合意上に適切に位置付けられることが必要である」と強く主張しました。これに対し、「REDD+への言及は不要であり包括的に『土地セクター』に含まれるものとして『土地セクター、土地利用』の重要性を確保することが重要」と考える先進国、「緩和セクションにはREDD+や土地の言及は不要」と考えるブラジル等が反対し、ブラケット付きでCOP21に送られ、更に議論されることとなりました。前文については、ノルウェイが土地・森林に関する提案を行った他、わが国がCfRNとその他先進国数か国と共に、吸収源・貯蔵庫としての森林の役割の重要性を強調するとともに、生態系サービスや生物多様性、脆弱性への対処等のセーフガード要素について言及する内容の前文を提案し、その他の多くのオプションの一つとして記述され、パリCOP21に送られることとなりました。
(2)COP21における交渉経緯
1)オープニング
初日にあたる11月30日、145か国の各国首脳がステートメントを述べましたが、そのうち60か国が「森林減少・劣化」、「REDD+」、「生物多様性」のいずれかの重要性に言及し、森林分野への各国の関心の高さが伺われました。この日、わが国を含む17か国が「森林と気候変動に関する首脳宣言」を発表し、気候変動対策における森林の役割の重要性を再確認し、各国政府や企業等が取り組みを進めることの重要性を呼び掛けました。
・森林と気候変動に関する首脳宣言
2)REDD+に関する条文案の協議
その後、ADP2-12会合の会期が終了する12月5日までの間、REDD+に関するパリ協定の条文案について非公式会合や非公式・非公式会合、少人数会合を連日深夜まで持ち、途上国・先進国のREDD+・土地セクター交渉官が集まり、現行のパナマ(CfRN)案を代替し、関心国の全てが合意しうる案文を見出すため議論を重ねました。政治的なメッセージとしての観点から、REDD+に関する何らかの条文をパリ協定もしくはCOP決定に含めることについては、多くの国が支持しましたが、どこに位置づけるか、どのような内容にするかについては意見が分かれ、パナマ(CfRN)の案にあるように「メカニズム」として定義づけることや、緩和、適応から独立した条項を立てることについては、先進国の多くや一部の途上国が強く反対しました。各国の意見は以下の3つのオプションに分かれました。
- [オプション1] これまでのCOP決定を「REDD+メカニズム」と名付け、独立した条項を設ける。
- [オプション2] 新たな名称を設けず、既存の内容を土地セクターの一部として緩和セクションに位置づける。
- [オプション3] 前文とCOP決定の資金にのみ言及する。
先進国の多くは、REDD+をパリ協定に位置づけるとしても、全締約国を対象とし、農業を含みうる「土地」「土地利用」セクターの緩和を示唆する条項も加えた上で[オプション2]とすることを主張しましたが、アルゼンチン等G77は農業セクターの緩和につながりうる、いかなる「土地」「土地利用」に関連した文言を入れることにも強く反対しました。また、REDD+を緩和セクションに位置づけることはブラジル、ボリビア、アフリカグループが強く反対しました。ブラジルは[オプション3]を支持し、ボリビアは自身が主張する「適応と緩和の共同アプローチ(JMA)」はREDD+と同等の扱いで並列して位置づけられるべきであり、このためREDD+、JMAの条文は緩和と適応の中間に独立した形で位置づけられるべきである」と主張し、アフリカグループは「約束草案を完成していない国がある中で緩和のセクションのみにREDD+を位置づけることに反対」することから[オプション1]を支持するとともに「非炭素便益」にも言及することを主張しました。いずれの国も譲歩しなかったため、第一週目のADP2-12会期中のREDD+交渉官レベルでの議論においては代替案には合意できずパナマ(CfRN)の原案のままブラケット入りでハイレベル会合に送られました。
閣僚級会合など様々な会合やバイでの議論の結果、最終的にパリ協定において、REDD+の独立した条文が立ち(5条)、第2項でREDD+、適応と緩和の共同アプローチの実施と支援、これらに関する非炭素便益にインセンティブを与えることが盛り込まれました。その第1項においては、全ての締約国は森林を含む吸収源・貯蔵庫を保全し増大するための活動を行うべきことが明記されました。
3)REDD+資金
REDD+の資金については、10日に発表された案文ではCOP決定案の2つのパラグラフにまたがって記述されていましたが、わが国からパラグラフ60については、「verifiable(検証されうる)結果に対して支払いを行う」との文言を修正し、「verified(検証された)結果に対し支払いを行う」とすべきこと、また、「官民からの資金」、のみが記述されていたところを「二国間、GCFを含む多国間、官民、代替資金源から」と修正すべきことを提案しました。この「代替資金源」とは、市場メカニズム等様々なアプローチを指すものとしてCOP17、COP19の決定に入っていたものであり、これらの決定を踏襲することを確保するため、主張したものです。12月12日に発表された最終のパリ協定案には、これらの意見が全てCOP決定パラグラフ55に反映されました。
4)その他関連-前文、市メカ
パリ協定の前文の非公式協議においては、昨年10月のADP2-11会合で我が国がパナマ(CfRN)等と提案した、「吸収源・貯蔵庫の保全と強化」「生物多様性」や「生態系」の重要性に関しては前文に残すべきと主張したところ、多くの国が支持しましたが、12月5日のテキスト案からは「生物多様性」「生態系」については削除され、更に協議が続けられることとなりました。最終的には、「吸収源・貯蔵庫の保全と強化の重要性」が残り(第12段落)、また「生物多様性の保全」、「生態系十全性の確保」の重要性については海洋保全やボリビアが主張してきた「母なる地球(Mother Earth)」とも関連付けた形で独立した段落として盛り込まれました(第13段落)。
また、市場メカニズムに関する 6条の2項、3項に、わが国が推進する二国間クレジット制度(JCM)なども含まれる「協力的アプローチ」による緩和成果の国際移転や、削減目標への活用が盛り込まれました。また、同条4~7項には国連管理型メカニズム、同条8項、9項には非市場アプローチが盛り込まれました。
4. まとめと今後の展望
REDDは、2005年にパプアニューギニアとコスタリカが提案した、途上国における森林減少・劣化の抑制による温室効果ガス排出を削減する仕組みが2007年にバリ行動計画に位置づけられ、2010年のCOP16カンクン合意でREDD+が対象とする5つの活動や、3つのフェーズによる段階的アプローチ、セーフガード項目等の基本的事項について合意、2013年のCOP19で結果支払いの要件などについて定めたワルシャワREDD+枠組みに合意し、実施フェーズに入ってきました。昨年6月に開催されたSBSTA42で合意したセーフガードの更なるガイダンス、非市場アプローチ(適応と緩和の共同アプローチ)、非炭素便益に関する3つの決定文書についてもCOPで採択されたことにより、計16の決定文書のCOPでの採択により本SBSTA議題の全ての作業計画が完結したこととなります。これにより、気候変動枠組条約の下でREDD+に取り組むための法的基盤が10年間の交渉の末、構築されました。
今回、2020年以降の枠組みを定めるパリ協定に、10年間の交渉の結果採択されてきたCOP決定に基づきREDD+を実施、支援していくことが奨励されることが明確に位置付けられました。これらの結果を得て、途上国・先進国の双方が取り組みを2020年以降も長期的な視野で安定的に進める基盤ができた、ということが言えると思います。
今後、パリ協定に関するCOP決定のパラグラフ31に規定されるように、各国がどのように吸排出を計上するかについて検討されることとなっています。また、パラグラフ37の規定により、協力的アプローチのガイダンスについてSBSTAで議論が行われ、クレジットの国際移転の仕組みについてどのように二重計上を避ける仕組みを構築するかを含めガイダンスが検討されることとなっており、REDD+についても対象分野の1つとして検討される可能性があると思われます。また、パナマ(CfRN)、アフリカグループは、パリ協定6条4-7項で設置された「国連管理型メカニズム」にREDD+を含むことを主張し、ボリビアは6条8-9項で設置された「非市場アプローチ」についてJMAを含むことを主張しておりますが、「国連管理型メカニズム」「非市場アプローチ」については、それぞれパリ協定に関するCOP決定パラグラフ38.、39及びパラグラフ40、41に基づきSBSTA等でルール、モダリティ、プロセス等に関するガイダンスが検討されることとなりました。
また、緑の気候基金の来年の作業計画について、結果支払いを実施できるようにすることや、民間資金の活用、JMAへの支援について検討することについてもCOP21決定として採択されました。また、COP19の決定により、資金や支援の調整に関しては、毎年6月に開催されるSBSTAの会期中にも各国のREDD+のフォーカルポイントによる自主的な会合が続けられ、2017年のCOP23で報告されることとなっています。
2016年は、REDD+の本格始動元年として、各国の取組が進められることとなるでしょう。林野庁としてもJCMの方法論ガイダンスの策定の支援などについて、対象国の国情に応じた実施ルールの検討と普及に取り組んでいきたいと思います。最後になりましたが、これまで、いろいろな立場でご指導ご協力下さった皆様に心から御礼を申し上げると共に、引き続きご支援賜りますようよろしくお願いいたします。
(写真1)ADP2-12閉幕(12月5日)木材をふんだんに使用したCOP21プレナリー会場
(写真2)パリ協定採択の瞬間(12月12日)Mr. Joaquim Macuacua(モザンビーク)提供
(写真3)REDD+交渉官等スナップ(12月12日・COP21会場)Ms. Julia Gardiner(豪州)提供
UNFCCC第21回締約国会合(COP21)
日程
平成27年11月30日(月)~12月11日(金)
場所
概要
2015年11月30日から12月11日まで、フランス・パリにおいて、気候変動枠組条約の第21回締約国会議(COP21)及び京都議定書の第11回締約国会合(CMP11)等が開催されます。今回の会合では、2020年以降の全ての国が参加する新たな国際枠組みの合意が予定されており、195か国の締約国政府代表をはじめ、関係国際機関、NGO、報道関係者等を含め2万人余りが参加者し、議論が行われる見込みです。会合初日には、約80か国の首脳が参加する首脳級プロセスも予定されています。2020年以降の枠組みにおけるREDD+の位置づけについても、気候変動緩和活動への途上国の幅広い参加を促す観点から、議論の動向が注目されています。 公式会合と並行し、関係機関等が数多くのサイドイベントや展示が開催されます。森林総合研究所REDD研究開発センターも、REDD+に関する4つのイベントを予定しています。
関連サイドイベント
12月1日(14:30-16:00):「REDD+の実現に向けた日本の官民連携の取組」 主催:森から世界を変えるREDD+プラットフォーム、JICA、森林総合研究所(日本パビリオン)
12月1日(13:00-14:00):JICA-JAXA「熱帯林監視システム~森林ガバナンス改善イニシアティブ」 主催:国際協力機構(JICA)、宇宙航空研究開発機構(JAXA)(日本パビリオン)