国立研究開発法人 森林研究・整備機構 森林総合研究所
REDDプラス・海外森林防災研究開発センター

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論文概要

論文

Addressing maladaptive coping strategies of local communities to changes in ecosystem service provisions using the DPSIR framework (Ecological Economics, 149, 226-238, 2018); doi:10.1016/j.ecolecon.2018.03.008

(カンボジア・プレイロング地域の森林減少・劣化の影響を受けた住民がさらに森林減少を助長する)

リンク先

https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0921800916306887

著者

江原誠(気候変動研究室 主任研究員)、百村 帝彦(九州大学)、佐藤 廉也(大阪大学)、黒澤 靖・荒谷 邦雄(九州大学)、SOKH Heng(カンボジア森林局)、香坂 玲(東北大学、ソウル国立大学)

概要

カンボジア王国のプレイロング地域の森林は、住民の貴重な現金収入源である天然樹脂(写真)や食料などの非木材林産物を供給している。しかし、企業や住民の農地開発、違法伐採などにより森林の減少・劣化が進行している。この森林減少・劣化により、非木材林産物を採取できなくなった住民の一部は、周辺に残っている森林を仕方なく農地に転用することにより生計の維持を試みる。本論文では、こうした森林減少・劣化の影響を受けた住民がさらなる森林減少を助長するという連鎖の実態を、DPSIRフレームワーク注)を用いて明らかにした(図)。また、そうした影響を受けなかった世帯群でも、2.3ha未満の農地しか有さない世帯は、新たに森林を農地等に転用する傾向があることが明らかになった。その結果、こうした森林減少の連鎖への主な対策として、1)非木材林産物に生計を依存している住民が多い地域を特定する、2)同地域に配慮した土地利用計画を策定し、関連法の施行を強化する、3)同地域での非木材林産物のマーケティングを強化する、4)非木材林産物に依存している住民を優先的に森林レンジャーとして雇用する、ことが有効であると考えられた。これらの成果は、プレイロング地域において、より現場の実態に即したREDDプラス関連施策の立案に貢献できる。


写真:仲買人のもとに集められた天然樹脂。天然樹脂はプレイロング地域周辺の住民の貴重な現金収入源だが、森林減少・劣化により失われることになる。


図:カンボジア・プレイロング地域の森林減少・劣化の影響を受けた住民がさらに森林減少を助長する仕組み (図中の数字は作用の順序を示す。結果的に社会側は図のような対策と対応をとることになる)

注) DPSIRフレームワークとは、環境政策や研究において、「Driver(問題の根本的原因)」、「Pressure(問題の直接的原因となる圧力)」、「State(圧力を受け変化する社会や生態の状態)」、「Impact(状態の変化によって生ずる影響)」、「Response(社会側の対策・対応)」の5つの構成要素から人間活動と環境との関係を描写するツールである。生物多様性条約第10回締約国会議で合意された愛知目標の5つの戦略目標もこのDPSIRフレームワークの構成要素に準拠している。