国立研究開発法人 森林研究・整備機構 森林総合研究所
REDDプラス・海外森林防災研究開発センター

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モニタリングシステムの設計手順の提示

2 REDDプラスプロジェクトのモニタリングシステム設計手順の提示 (ミャンマー)

(1) はじめに

REDDプラス活動をプロジェクトレベルで実施する場合、その成果を国レベルのREDDプラスに反映させることは、ある国での様々なREDDプラス活動の整合性を保ちながら無駄なく効率的に遂行するために必要です。

ミャンマーは豊富な森林資源を持ち、かつ森林減少率の高い国です。UN-REDDに参加したのは2011年と比較的遅く、REDDプラスへの体制はまだ十分に整備されておらず、その確立を急いでいる国です。

本課題では、同国におけるREDDプラスプロジェクトを想定した森林炭素モニタリング体制の設計を通して、プロジェクトレベルと国レベルの双方の森林炭素モニタリングの要件をカウンターパートおよび関係者とともに明らかにします。

今年度は、国レベルとの整合性の観点から、プロジェクトレベルでの森林炭素モニタリング設計のために必要な検討事項を整理するとともに、効率的なモニタリング手法に関して考察しました。

(2) 森林炭素モニタリング設計手順の検討

本節では、ミャンマーを対象地とし、プロジェクトレベルでREDDプラス活動のための森林炭素モニタリングを実施することを想定して、国レベルとの整合性を考慮したモニタリング設計に必要な事項を考察します。

ミャンマー政府は2013年に「Myanmar REDD+ Readiness Roadmap」を公開しました。これを受けて「Forest (Emissions) Reference Level action plan for Myanmar」と「Development of a National Forest Monitoring System for Myanmar」」の二つの行動計画が2015年末までに公表されています。これまでの報告でも指摘したように、森林局(FD)は本課題を初めREDDプラスに関する共同プロジェクトに様々な方法をミャンマー内森林で試験することにより、それぞれの成果の有効性をミャンマー政府として独自に評価するとともに、それらにより得られた地域ごとの森林炭素蓄積等に関するデータの集積し、行動計画に取り入れることを期待しています。

2018年1月に参照排出レベル(FREL)が気候変動枠組条約(UNFCCC)に提出されました(http://redd.unfccc.int/files/2018_frel_submission_myanmar.pdf)。その中でFRELは、国レベルを対象に、2005年から2015年までの森林面積の変化量をもとに算定され、森林減少と植林による炭素増強が活動の対象となっており、森林劣化は対象外で、現在、UNFCCCによるTechnical Assessment(TA)を受けているところです。提出されたFRELでは、ミャンマー全体で森林タイプごとに区分せずに一つの排出係数にまとめるに留まっています。今後、森林劣化の評価をどのように組み入れていくのかなど、解決すべき問題は少なからず存在しますが、ミャンマー国内でプロジェクトレベルの事業を設計する上で、FRELの設定に用いられた方法を採用することで国レベルとの整合性を得ることができます。本年度は森林炭素モニタリングシステムの設計を考える上で、国レベルで用いられたモニタリング手法をプロジェクトレベルの事業でも採用することによって生じうる問題点や、プロジェクト独自にモニタリングを実施することの意義などを整理します。

(2-1) 国レベルとプロジェクトレベルとの間で生じる問題点

昨年度までに、森林炭素モニタリングシステムの設計手順として、国レベルのモニタリングおよびFREL策定の準備状況に基づき大きく二つのシナリオ(FRELの設定ありと設定なし)を想定して、それぞれのシナリオで考えられる作業フローの検討を行ってきました。今後、プロジェクトレベルでモニタリングシステムの設計を考える場合、国レベルとの整合性を取るために、FRELの設定に用いられた方法論を参考に設計を進める必要があります。一方で異なるスケール間で同一の方法を用いることによる問題点も少なからず生じます。ここでは、「森林タイプの分類」と「現存量の計算に用いた方法」という二点について論点を絞り、それぞれで想定される問題点について考察します。

a)森林タイプの分類

プロジェクトの対象地域においても、そこに含まれる森林は様々な植生から構成されている可能性があります。既存の国家森林資源調査(NFI)データや植生図などの情報から、プロジェクトの対象地域の森林タイプを正確に把握して、必要に応じて森林タイプごとにモニタリングのための観測点数や配置を考える必要があります。ミャンマーを例にとると、植生構造を基本に森林は「常緑林」と「落葉林」の二つに区分されています(Kress et al. 2003)。森林植生に類似点が多い、カンボジアでの先行事例では、常緑林と落葉林では森林炭素蓄積量が異なっており(Samreth et al. 2012)、この二つの森林タイプを区分することによって、より正確な森林炭素蓄積量の推定を行っています。すなわち、この両者の分布割合により、森林炭素蓄積量も変わってくることを意味します。

植生以外にも樹冠被覆率の違いを森林タイプの分類基準にする場合もあります。ミャンマーもその国の一つであり、森林を樹冠被覆率の違いによって森林を二つに区分(Open forestとClosed forest)しています。これまでに本事業によるミャンマー国内の調査によって、Open forestとClosed forestでは森林炭素蓄積量が大きく異なっており、両者の区分が正確な森林炭素蓄積量推定のためには必要であることを指摘してきました。上記の植生に基づく森林タイプの区分と樹冠被覆率による区分を組み合わせることによって(表-2)、より正確な森林炭素蓄積量の推定が期待できます。炭素蓄積量の減少が森林劣化の一つの指標とするならば、このようなマトリックスを作成することで、森林劣化による排出量の推定も可能となります。いくつかの途上国では、森林劣化による排出量が森林減少のよる排出量を上回っているとの報告もあり(Pearson et al. 2017)、森林劣化を含めた排出削減量評価のために、このような森林タイプの細分化がいずれ必要になってくるものと思われます。

表-2 異なる基準の組み合わせによる森林タイプの分類例

森林タイプ 樹冠被覆率による分類
Open
Closed
植生による分類
常緑林
落葉林

b)現存量の計算に用いた方法

森林炭素蓄積量の計算のためには、炭素プールの重要な構成要素である、樹木の現存量(バイオマス)を求める必要があります。一般的に、拡大係数(BEF: biomass expansion factor)を用いる方法と、アロメトリ式を用いる方法があります。REDD研究開発センターでは、アロメトリ式を用いる方法を推奨し、これまでに国の特性に応じたアロメトリ式開発も行ってきました。対象国の森林に応じた、独自のアロメトリ式を適用して現存量を求めるのが理想ですが、現実的には困難であり、既存のアロメトリ式の中で適切な式の選択がより重要になります。

ミャンマーを例に取ると、地上部現存量(AGB)の計算には胸高直径(DBH)のみを変数とする熱帯林用の一般式を用いています。ミャンマー国内で優占する熱帯季節林では、上記一般式作成の元データが取得された熱帯林とは種組成および幹密度が異なることから、適用の妥当性が問題になる可能性があります。インドシナ地域(例えばカンボジアやタイ)で作成されたアロメトリ式を用いることによって、熱帯林全域に適用可能な一般式よりは、推定誤差を抑えることができる可能性があります。

一方で、現在までに熱帯林全域で森林タイプを考慮せずに適用可能な一般式が多数開発されており、その中には、DBHに加えて樹高と材密度を用いることによって推定精度を向上させている一般式もあります(例えばChave et al. 2014)。火災などで劣化した森林では、材密度の軽い先駆性樹種が優占することから(Toma et al. 2017)、材密度を用いたアロメトリ式の使用は、現存量の推定精度向上に大きく寄与します。この事は、劣化した森林が多数を占める地域の場合、材密度の含まない式による計算結果は、過大推定の可能性があることを示唆しています。しかし、材密度使用のためには、正確な樹木種組成の把握が必要であり、加えて種ごとの材密度を把握しておく必要があります。インベントリデータから種組成データを得ることも可能ですが、種レベルまで同定がなされていない場合も少なくありません。また、種ごとの材密度のデータも世界レベルでは整備が進みつつあるものの、対象国に適応可能なデータが必ずしもあるとは限りません。このような困難さはあるものの、材密度を含むアロメトリ式の利用は、推定精度の向上という観点からは望ましい選択肢の一つです。

以上のことから、国レベルの森林炭素蓄積量推定のために用いられているアロメトリ式が必ずしもプロジェクト対象地域の森林に合致していない可能性があることを認識しておく必要があります。国レベルとの整合性を取るため、国レベルで用いているアロメトリ式による計算は必要ですが、それに加えて、複数の式を用いた計算を同時に合わせて行い、それぞれの式の計算結果を把握しておくことで、FRELの改定などの諸環境の変化にも順応的に対応できます。

(2-2) プロジェクトレベルで独自にモニタリングする意義

異なるスケール間での整合性を取るため、国レベルで用いられた排出係数を用いた場合、プロジェクト地域内の活動係数の変化をモニタリングすれば良く、新たに地上調査のためのプロットを設定しなくとも、プロジェクト期間内の排出量の算定は可能です。しかし、地上調査のためのプロットによるモニタリングでしか得られない情報もあります。ではプロジェクトレベルで実施したモニタリングデータには、どのような付加価値があるのでしょうか。

国レベルでの方法論策定の過程でNFIのデータが大きく寄与しています。基本的にNFIの調査点は全国に隈なく設定されており、それぞれの調査点で種組成や撹乱履歴などの重要な情報をもたらしてくれます。一方でコストと労力の関係から、調査点の設定数は限定的である場合もあり、プロジェクト対象地域にNFIの調査点が十分に落ちていない可能性もあります。プロジェクトレベルでモニタリングのための調査点を独自に設定することで、NFIプロット以外の定点観測点として機能が期待できます。すなわち、対象地域内に多数のモニタリング用の調査点を配置することによって、森林減少および森林劣化の最前線の把握(減少速度の把握)、撹乱後の回復過程の把握、森林減少対策の実効性の評価などが期待できます。

これまでに30を超える国と地域がUNFCCCにFREL/FRLを提出しているが、ほとんどの国で森林劣化による排出量を対象としていない。しかし、森林劣化による排出削減量の評価は重要であり、将来的に含まれるであろう「森林劣化」評価への準備が必要となってきます。そこでプロジェクトレベルでのモニタリングデータが森林劣化の評価に必要な情報を提供できる可能性があります。たとえば、ミャンマーのFRELは森林劣化を対象外としており、かつ、排出係数も森林タイプや樹冠被覆率の違いを考慮していないことから、その方法論を用いたデータから森林劣化を評価するのは難しいと思われます。より細かい事象(種組成や樹冠被覆率など)まで把握できるプロジェクト独自の方法論を併用することによって、表-2で示されたマトリックスに代表されるようなデータに新しい価値を付けることができます。これら付加価値のあるモニタリングデータは、種組成データの解析による森林劣化指標の創出にも結びつき、将来的なFREL改善にも結びつくでしょう。

(3) 効率的なモニタリング手法の開発

REDDプラスプロジェクトのモニタリングシステムの設計手順を、事例調査を元に示すことを目的として、これまで森林炭素蓄積量の地上調査を行ってきました。対象地はシャン州南部のPaung Luang Reserved Forest (RF)一帯として、40m×40mの方形区を合計53個設定し、ミャンマー森林研究所(FRI)の協力を得て調査を実施しました。これにより、林冠被覆率を考慮した排出係数を用いて、より現実に近い炭素蓄積量の変化を把握することができ、2018年1月にUNFCCCへ提出されたミャンマーのFRELの将来的な改善点となり得ることが示唆されました(http://redd.unfccc.int/files/2018_frel_submission_myanmar.pdf)。一方で、今後プロジェクトレベルでの地上調査を行うにあたり、国レベルでの地上調査(例えばNFI)との整合性が求められます。整合性の観点から、森林モニタリングの設計段階において様々なスケールに対応した地上調査の調査精度とコストの情報が必要となり、一貫性のある調査手法を用いることで異なる対象スケール間での相互利用が可能です。一般的に、森林での標本調査法における期待誤差率は母集団の統計量(ここではバイオマス量の変動係数)に依存します。変動係数(cv)は同じ林相においても、調査面積が広いほど小さくなることが知られており、両者の関係は以下の式で近似されます(細田ら、2012)。

cv=aAb     式1

ここで、Aは調査面積、aとbはパラメータです。これらの関係は立木本数によっても変化し、また調査面積や立木本数は調査時間に影響すると思われます。そこで、RF内において大面積調査プロットを設定し、調査面積にもとづくバイオマス量の変動係数と調査時間について調査を行いました。

(3-1) 地上調査における立木の調査精度と調査時間

RF対象区内において、1haの大面積調査プロットを6カ所設定し、FRI職員と林業大学の卒業生、現地住民のべ20名を4班(4~5人/班)にわけて調査を実施した。1班が50m×50m(0.25ha)を担当し、プロット設定から毎木調査を行いました。1つのプロットは100のサブプロット(10m×10m、0.01ha)から構成され、サブプロット毎に立木調査(胸高マーキング、ナンバリング、DBH10cm以上の直径・樹高測定、樹種同定)を行い、調査時間にも記録しました。1ha全てのバイオマス量をその林分の真値と仮定し、調査面積を0.01haから0.99haまで0.01ha区切りで変化させた時のバイオマス量の変動係数と調査時間をモンテカルロ法により推定した。森林の空間的な連続性は無視してサブプロットを無作為に抽出する試行をひとつの調査面積につき5万回繰り返し(再抽出は行わない)、サブプロットの単位面積あたり総バイオマス量の変動係数と総計測時間の平均値を算出しました。

図-5 調査面積とバイオマス量の変動係数(左)、調査時間(右)の関係

試算の結果(図-5)、バイオマス量の変動係数は調査面積が大きくなるほど減少し、その減少率は立木密度によって異なっていました。また、調査時間については平均化されたことから、調査面積の増加に伴い直線的に調査時間が増加し、立木密度によってその傾きが変化しました。ここで、式1を用いて調査面積と変動係数の関係式のパラメータを推定し、調査時間については切片を0とする一次式(調査時間=比例定数×調査面積)としてそれぞれのパラメータを推定しました。その結果を表-3に示します。

それぞれのパラメータを推定しました。その結果を表-3に示します。

表-3 バイオマスと調査時間の集計値

プロット
ID
立木本数
(n/ha)
地上部バイオマス
(t/ha)
地下部バイオマス
(t/ha)
総バイオマス
(t/ha)
変動係数 調査時間
パラメータa パラメータb
比例定数
R1801
14
0.8
0.2
0.9
28.75
-0.599
2.98
D1802
153
87.5
21.0
108.5
13.82
-0.596
4.08
D1801
226
219.2
43.8
263.0
14.87
-0.598
5.79
S1802
259
52.6
12.6
65.2
8.19
-0.597
5.25
R1804
331
280.3
56.1
336.3
8.46
-0.597
8.94
S1801
373
117.8
28.3
146.1
9.14
-0.597
6.27

バイオマス量の変動係数におけるパラメータaは立木本数に依存し、パラメータbはほぼ一定の値をとりました。パラメータbは林分によって固有の値をとることがLynch(2017)により報告されており、RF区内での森林では-0.6前後でした。調査時間における比例定数についても立木本数とともに増加することから、立木本数が多くなるほど調査時間がかかるという事象が定量的に評価できました。ここで、変動係数におけるパラメータaと調査時間にかかわる比例定数について立木本数からの推定を試みました。

図-6 立木本数とパラメータaおよび比例定数の関係

(左図関係式; -6.183・log(N)+45.17,右図関係式;3.052・Exp(0.0025・N))

図-6には立木本数とパラメータa、比例定数の関係を示す。それぞれあてはまりの良い関係式を用いて推定しました。これらの推定式を用いることで、立木本数・調査面積に応じたバイオマスの変動係数と調査時間の推定が可能となります。図-7はその推定結果です。今回の大面積調査では樹冠被覆率の低い林を主に対象としたため、立木本数400本程度までの推定値しか信頼性がありません。今後、樹冠被覆率の高い林分においても同様の調査を行うことで、立木本数のレンジが広がることが期待されますが、RF区内のみでの結果なため、ミャンマー全ての森林タイプにおいて推定することはできません。現在ミャンマーではFAOやフィンランドが主導してNFIの立ち上げを行っており、その事前調査として代表的な森林タイプにおいて本調査を行うことで、目標精度にあった調査面積が設計段階において決めることが可能となり、調査時間を推定することで、必要となるコスト推定も可能となります。また、プロジェクトレベルでの地上調査においても同じ推定式に基づいて調査設計を行うことで、国レベルのNFIとの整合性が保たれます。これら成果については、次年度成果報告を行うとともにミャンマーNFIの立ち上げを行っているワーキングループにおいても情報を共有し、提案していく予定です。

図-7 立木本数・調査面積による変動係数と調査時間の推定値

(林分本数は50から400本/haの間において50本間隔で変化させた場合)

(3-2)タケの調査省力化によるバイオマス推定精度と省力効果

ミャンマーではタケについても森林と定義されているため、炭素蓄積量を評価する上でタケは重要な炭素貯蔵源です。ミャンマーではDBHを変数とするタケのアロメトリー式が開発されていますが、タケは密に繁茂することから全てのタケを対象とした直径測定は調査時間の増長に繋がります。平成28年度REDD+推進民間活動支援事業報告書において、対象区におけるタケの調査省力化手法について報告しました。このなかでは、一つのプロットにおいてタケの樹種毎にそれぞれ数十本程度の直径測定し、残りの本数を数えることで総バイオマス量が精度良く推定できると報告しました。そこで、その省力効果について検討するために、RF区内のTaung gya村において、タケを測定する時間を計測しました。調査者は森林調査に熟練したFRI職員2名で、計1,450本(3樹種)のタケの直径および本数測定の様子をビデオ撮影により記録し、それぞれの測定時間を計測しました。直径は直径巻尺、本数は数取器を用いて測定しました。個体ごとの直径測定時間は直径と株本数(一つの株内の総本数)に依存するという仮定の推定式とし、MCMC法によるパラメータ推定により、以下の式が得られました。

Dt= 8.81+0.77D - 0.01N     式2

Dtは直径測定時間、DはDBH、Nは株本数を表します。図-8には、実測時間とこの推定式から得られた推定測定時間を表します。概ね良好な精度で直径測定時間が推定できました。大きく過小推定されるタケ稈については、測定に時間を費やした株の中央部にある個体です。本数測定時間については、株ごとの総時間をその株の本数で説明する推定式として、以下の式を得ました。

Nt=17.05+1.3N     式3

Ntは一つの株の本数測定時間、Nは株本数(一つの株内の総本数)を表します。図-9には株ごとの本数と本数測定時間の関係を表します。

図-8 個体別直径の計測時間の関係

実測値と推定地の関係(実線は推定式を示す)(実線は1:1を示す)

図-9 株別本数と測定時間の関係

実測値と推定地の関係(実線は推定式を示す)(実線は1:1を示す)

これらの推定式を用いて、2017年2月までに地上調査を行ったプロット(40m×40m)のうち、タケが出現したプロット(37プロット)にあてはめ、バイオマス推定精度と省力効果について検討を行いました。1つのプロットにつき各樹種1本から150本まで直径測定本数を変化させ、残りは本数を数えるという仮想調査の試行を100回ずつ繰り返しました。選木はランダムサンプリングとして、100回の平均バイオマス誤差と平均省力時間の関係を確認しました。図-10には、直径測定本数と相対的な正確度と精度の関係を表します。直径測定本数が20本を超えると平均誤差率は10%以下となり、ばらつきについては30本を超えると1%を下回るという結果になりました。図-11には、37プロットにおける調査時間の分布を示します。茶色の図がすべての直径を測定したときの総調査時間であり、緑色の図は直径測定数を変化させたときの省力時間を表しています。中央値で比較すると、全ての直径を測定した場合は3.2人時かかるのに対して、直径を30本のみ測定し残りは本数を数えたと仮定した場合は0.5人時となり、2.7人時の省力が可能となります。本数が非常に多いプロット(n=2,606)では16人時程度削減できるため、省力効果はより大きなものとなりました。最後に、これらバイオマス推定精度と省力時間を表-4に表します。調査省力時間をコストに変換することで、調査費用の削減量の推定が可能となります。タケの繁茂する地域において炭素モニタリングを行う際、その調査設計をするうえでどの程度のバイオマス推定精度でどの程度の省力効果が見込めるかの判断材料として、有用な情報となると考えられます。

図-10 直径測定本数と相対的な正確度と精度の関係

図-11 37プロットにおける調査時間の分布

(茶色の箱ひげ図は、全ての直径を測定した総時間を示し、緑色の箱ひげ図は直径測定数(D=〇)に応じた省力時間。単位は0.16haでの調査人時。移動時間は含まない。)

表-4 直径測定本数に応じたバイオマス推定精度および省力時間

直径測定本数 平均絶対誤差率
(%)
平均平方二乗誤差率
(%)
省力時間(人時/0.16ha)
タケ本数(N/0.16ha)
500本
1000本
1500本
2000本
2500本
10
12.2
1.6
3.2
6.5
9.9
13.4
16.8
20
8.0
1.1
3.0
6.4
9.8
13.2
16.7
30
6.2
0.8
2.9
6.2
9.6
13.1
16.5
40
5.2
0.7
2.8
6.1
9.5
12.9
16.4
50
4.6
0.6
2.7
6.0
9.3
12.7
16.2
60
4.1
0.6
2.6
5.8
9.2
12.5
15.9
70
3.7
0.5
2.5
5.7
9.0
12.3
15.7
80
3.4
0.5
2.4
5.5
8.8
12.1
15.5
90
3.2
0.4
2.3
5.4
8.6
11.9
15.3
100
3.0
0.4
2.2
5.3
8.5
11.7
15.0
110
2.8
0.4
2.1
5.1
8.3
11.5
14.8
120
2.7
0.4
2.0
5.0
8.1
11.3
14.6
130
2.5
0.4
2.0
4.9
8.0
11.1
14.4
140
2.4
0.3
1.9
4.8
7.8
11.0
14.1
150
2.3
0.3
1.8
4.7
7.7
10.8
13.9

平均絶対誤差率および平均平方二乗誤差率は、図-18から得られた値を用いて累乗式にあてはめた推定値を示し、省力時間は1プロットに1樹種のタケがあると仮定しました。