「森林技術国際展開支援事業」治山技術の現地適用へ向けたベトナム北西部山地流域における地形地質調査
古市剛久(森林防災研究領域 特別研究員)
大澤 光 (森林防災研究領域 研究員)
渡壁卓磨(関西支所森林環境研究グループ 研究員)
日程
2022年09月06日~18日(13日間)
出張先
ベトナム社会主義共和国 ハノイ市ベトナム森林科学アカデミー、イェンバイ省ムーカンチャイ県
概要
森林総合研究所では、森林の防災・減災機能を最大限に発揮させる日本の治山技術を発展途上国などの海外の現場に効果的に適用するために必要な手法を開発することを目的とした「森林技術国際展開支援事業(林野庁補助事業)」を2020年度(令和2年度)から実施しており、9月に同事業の現地調査を実施しました。ハノイにて現地カウンターパートであるベトナム森林科学アカデミー(Vietnamese Academy of Forest Sciences: VAFS)を訪問して調査の事前打ち合わせを行った後、ハノイからイェンバイ省ムーカンチャイ県へ移動し、(1)斜面崩壊に関する特徴の理解、(2)土砂流出に関する特徴の理解、を目的として現地調査を行いました。
(1)ムーカンチャイ地区では表層崩壊(地表部1-2m程度の土層の崩れ)と地すべり(崩壊深度がより深く、規模もより大きな崩れ)の双方が見られることを確認しました。表層崩壊については、2017年の大雨で群発したキムノイ地区において、土層断面調査や採取した試料を用いて土質試験を行いました。また、山地上部(標高約2,000m)のキムノイ地区における降雨パターンは、既存の雨量計がある谷底部のムーカンチャイ(標高約900m)のそれとは異なると予想されることから、キムノイ地区に雨量計を設置して降雨観測を開始しました。地すべりについては、ムーカンチャイ市街からほど近い斜面に確認された地すべりを概査しました。それぞれの調査の結果、ムーカンチャイ地区で発生する斜面崩壊のタイプは斜面に分布する土層の特徴(土層の厚さ等)が深く関係していると見られ、土層の特徴とその分布要因を地質地形の観点から分析し、斜面崩壊危険度を評価する際の基礎データとして活用するべく、今後検討をすすめることにしました。
(2)土砂流出については、まずは流出量を把握するために気象水文局のムーカンチャイ観測所に河川の水位及び濁度を自動計測する装置を設置し、また河川水の採水方法について観測所スタッフに説明しました。この観測は、VAFS・気象水文局・森林総研による共同観測として実施します。このような土砂流出観測体制を整えた上で、土砂がどのような要因で流出しているのかを特定する目的で、流域踏査と河川水の採水を行いました。流域踏査を通じて、森林伐採の影響だけでなく、人為による地形/土地改変が土砂流出に対して大きなインパクトを持つ可能性があることがわかりました。採水試料はハノイへ持ち帰り、分析を進めることにしました。