国立研究開発法人 森林研究・整備機構 森林総合研究所
REDDプラス・海外森林防災研究開発センター

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研究員現場レポート/海外出張

「森林技術国際展開支援事業」治山技術の現地適用へ向けたベトナム北部山地流域における山地災害調査、及びベトナム北部海岸におけるマングローブ防災林調査

【山地班】

岡本隆(森林防災研究領域 治山研究室長)

古市剛久(森林防災研究領域 特別研究員)

鈴木秀典(林業工学研究領域 森林路網研究室長)

山口智(林業工学研究領域 主任研究員)

宗岡寛子(林業工学研究領域 主任研究員)

道中哲也(生物多様性・気候変動研究拠点 チーム長:森林推移分析担当)

【海岸班】

倉本惠生(森林植生研究領域 植生管理研究室長)

江原誠(生物多様性・気候変動研究拠点 主任研究員)

森大喜(九州支所 主任研究員)

平田泰雅(REDDプラス・海外森林防災研究開発センター長、研究ディレクター)

日程

2022年12月14日~24日(11日間)

出張先

ベトナム社会主義共和国 ハノイ市ベトナム森林科学アカデミー、イェンバイ省ムーカンチャイ県、ソンラ省モンゾン県、ナムディン省スワントゥイ国立公園

概要

森林総合研究所は、森林の防災・減災機能を最大限に発揮させる日本の治山技術を発展途上国などの海外の現場に効果的に適用するために必要な手法を開発することを目的とした森林技術国際展開支援事業(林野庁補助事業)を2020年度(R2年度)から実施しています。2022年12月、同事業に係る現地調査をカウンターパートであるベトナム森林科学アカデミー(Vietnamese Academy of Forest Sciences: VAFS)と共同で実施しました。現地では山地班と海岸班に分かれ、山地災害、及びマングローブ防災林に関する調査をそれぞれ実施しました。

【山地班】

ベトナム北西部のソンラ省モンゾン県とイェンバイ省ムーカンチャイ地区で、山地災害に関する現地調査を実施しました。調査の目的は、日本の治山技術の効果的な適用方法を開発するための基礎情報を蓄積することです。

まず、モンゾン県では道路と治山施設に焦点を当てた調査を行いました。住民参加の道路整備の実態や施設の運用方法などを理解し、効果的な適用方法のための基礎情報を蓄積しました。さらに、現地住民の暮らしや自然災害の経験について理解を深めるため、複数の家庭を訪問し予備的な聞き取り調査を実施しました。

次に、ムーカンチャイ地区で土砂流出と地すべりに関する調査を行いました。9月に開始した河川の水位と濁度の観測データを収集し、降雨時の河川流量と土砂流出量の関係を把握することができました。また、土砂流出の発生源を特定するために、流域内で河川水を採取しハノイのVAFS実験室で土砂量を分析しました。さらに、日本の治山技術の輸出事例を調査するため、地すべり地を訪問しました。現地の担当者とともに、地すべり観測機器や観測データの転送方法などについて意見交換を行い、日本の民間コンサルタントが提供する技術の有用性を確認しました。

この調査を通じて、ベトナムの山地災害対策に日本の治山技術を適用するための情報収集が進み、今後の取り組みに役立てることができると考えられます。

【海岸班】

ベトナム北部沿岸域において、マングローブ植林地の現地森林調査および地域住民のマングローブ植林に対する意識に関する調査を行いました。ベトナム沿岸域のマングローブ林はエビ養殖池などに開発されて減少した後に植林活動が大々的に行われてきた歴史があります。調査はマングローブ林の防災・減災機能の発揮にむけて、植林木の成長や関連要因(植林方法や立地条件、社会条件など)、および植林が地域住民の実際の被害や意識に与えた影響を明らかにし、植林や保全に関する技術指針に反映する狙いがあります。

調査はナムディン省沿岸のスワントゥイ国立公園地域で行いました。森林調査では広大な調査域をボートでまわり現地共同機関と選定した地点で樹高や幹の太さを測定しました。また、衛星画像や現地機関情報から成長がよくないと思われる植林地をいくつか選び、実際に現地を確認し測定しました。住民意識調査は今後の本格的な調査の準備として村落と関係行政機関をまわって計画を説明して協力を得ました。また、住民代表の方のお話を参考に今後の意識調査の方法を検討しました。今後さらに計画を進め、防災・減災機能の発揮にむけたマングローブ植林の技術指針や提言につなげていきたいと考えています。

住民が日常的に利用する道路の調査
(ソンラ省モンゾン県)
濁度測定のための河川水の採水
(イェンバイ省ムーカンチャイ地区)
日本の民間業者が設置した地すべり観測施設
(ムーカンチャイ地区)
マングローブ植林地での樹高計測
 
衰退したマングローブ植林地の現地確認