「森林技術国際展開支援事業」治山技術の現地適用へ向けたベトナム北部山地流域における山地災害調査、及びベトナム北部海岸におけるマングローブ防災林調査
【山地班】
岡本隆(森林防災研究領域 治山研究室長)
大澤光(森林防災研究領域 主任研究員)
古市剛久(森林防災研究領域 特別研究員)
鈴木秀典(林業工学研究領域 森林路網研究室長)
山口智(林業工学研究領域 主任研究員)
宗岡寛子(林業工学研究領域 主任研究員)
道中哲也(生物多様性・気候変動研究拠点 チーム長:森林推移分析担当)
渡壁卓磨(関西支所 主任研究員)
【海岸班】
平田泰雅(森林管理研究領域・研究専門員)
森大喜(九州支所 主任研究員)
倉本惠生(森林植生研究領域 植生管理研究室長)
野口宏典(森林防災研究領域 気象害・防災林研究室長)
小野賢二(東北支所・チーム長(立地評価研究担当))
江原誠(生物多様性・気候変動研究拠点 主任研究員)
日程
2023年9月4日~17日(14日間)(岡本、大澤、古市、鈴木、山口、宗岡、渡壁)
2023年9月17日~30日(14日間)(平田、森、倉本、野口、小野、江原)
2023年9月25日~10月6日(12日間)(道中)
出張先
ベトナム社会主義共和国 ハノイ市ベトナム森林科学アカデミー、イエンバイ省ムーカンチャイ県、ソンラ省クインナイ県モンゾンコミューン、ナムディン省スワントゥイ国立公園
概要
森林総合研究所は、森林の防災・減災機能を最大限に発揮させる日本の治山技術を発展途上国などの海外の現場に効果的に適用するために必要な手法を開発することを目的とした森林技術国際展開支援事業(林野庁補助事業)を2020年度(R2年度)から実施しています。2023年9月、同事業に係る現地調査をカウンターパートであるベトナム森林科学アカデミー(Vietnamese Academy of Forest Sciences: VAFS)と共同で実施しました。現地では山地班と海岸班に分かれ、山地災害、及びマングローブ防災林に関する調査を実施しました。
【山地班】
ベトナム北西部のイエンバイ省ムーカンチャイ県とソンラ省モンゾンコミューンにおいて、日本の治山技術の効果的な適用方法を開発するため、山地災害に関する自然科学的、社会科学的調査を実施し、情報を収集しました。
ムーカンチャイ県では、土砂流出、道路、治山施設、住民意識に関する多岐にわたる調査を実施しました。まず、土砂流出の発生源を明らかにするために、流域内で降雨時と無降雨時の河川水を採取するとともに流量測定を行いました。採取した水についてはハノイ(VAFS)での実験を通じてそれぞれの土砂量を推定しました。さらに、土砂流出が発生する限界降雨量を特定するために、林地や裸地などの異なる土地利用形態ごとに現地の浸透能を測定しました。この調査により、異なる土地利用形態が土砂流出に与える影響を評価でき、効果的な治山対策の提案につながります。
道路調査では、道路からの土砂流出の原因にもなる切土のり面の崩壊について調査を行い、地形や土層厚の計測結果から崩壊原因の推定を行いました。この調査によって土砂の発生源を明らかにすることができ、道路における土砂流出対策を提案することができます。
治山施設に関する調査の結果、山腹斜面には治山施設がほとんど存在しないことが明らかになりました。現地の企画財政事務所への聞き取り調査によると、その背景には斜面が住民の生計維持のために農地として利用されていることが判明しました。このため、山腹に対する治山施設の重要性を住民や行政機関に認識してもらう必要があることが分かりました。
もう一つの調査対象地であるソンラ省クインナイ県モンゾンコミューンでは、住民世帯調査を行いました。本調査は、社会経済状況、住民の森林防災機能への認識、政府へのニーズ・期待、防災意識、防災行動を明らかにすることを目的としています。事前に世帯調査用のアンケートを準備し、ベトナム森林科学アカデミー西北支所にて、調査員にトレーニングを行いました。ベトナム語のほかタイ族の言語も分かる調査員が3名参加しました。モンゾンコミューン役場の副主任と11村の村長らの協力を得て、出張期間中、Khop村、Xa村、Huoi Van村にて109世帯に調査を行いました。今回の調査から、調査対象の住民は、政府には植林面積の増加、災害防止のための恒久的または一時的な工事の建設、防災教育の強化、防災の気象情報のタイムリーな提供、被災者への支援を、村民には人道的援助を期待していることが明らかになりました。
この調査を通じて、ベトナムの山地災害対策に日本の治山技術を適用する際の技術的可能性や社会的な課題が分かりました。、この知見は、今後の取り組みに大いに役立つと考えています。
【海岸班】
ベトナム北部沿岸域において、マングローブ植林地の現地森林調査および地域住民のマングローブ植林に対する意識に関する調査を行いました。ベトナム沿岸域のマングローブ林は、ベトナム戦争の戦禍や魚介の養殖地開発などにより減少した後に、政府主導の下で植林・保全活動が積極的に行われてきた経緯があります。調査はマングローブ林の防災・減災機能の発揮にむけて、植林木の成長や関連要因(植林方法や立地条件、社会条件など)や、波や風に対するマングローブの破壊限界、植林が地域住民の実際の被害や意識に与えた影響を明らかにし、植林や保全に関する技術指針に反映する狙いがあります。
調査はナムディン省沿岸のスワントゥイ国立公園地域で行いました。森林調査では広大な調査域をボートでまわり現地共同機関と選定した地点で樹高や幹の太さを測定しました。また、風や波がマングローブにもたらす力に対し、どの程度の力までマングローブは根返りせずに堪えられるか、マングローブの根返りに対する抵抗力の測定を行いました。住民意識調査は、2023年よりVAFSと共同して検討し、作成した調査票を元に、マングローブに関わりを持つ村落に居住する住民を対象に、本格的な聞き取り調査を開始しました。今後さらに調査を進め、防災・減災機能の発揮にむけたマングローブ植林の技術指針や提言につなげていきたいと考えています。