国立研究開発法人 森林研究・整備機構 森林総合研究所
REDDプラス・海外森林防災研究開発センター

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研究員現場レポート/海外出張

「森林技術国際展開支援事業」治山技術の現地適用へ向けたベトナム北部山地流域における山地災害調査、ベトナム北部海岸におけるマングローブ防災林調査、及びプロジェクトワークショップの開催

【山地班】

玉井幸治(研究ディレクター 国土保全・水資源研究担当)

岡本隆(森林防災研究領域 治山室長)

村上亘(森林防災研究領域 チーム長)

古市剛久(森林防災研究領域 特別研究員)

道中哲也(生物多様性・気候変動研究拠点 チーム長:森林推移分析担当)

【海岸班】

平田泰雅(森林管理研究領域・研究専門員)

倉本惠生(森林植生研究領域 植生管理研究室長)

野口宏典(森林防災研究領域 気象害・防災林研究室長)

小野賢二(東北支所・チーム長(立地評価研究担当))

日程

2024年2月24日~3月9日(グループ別、最大15日間)

出張先

ベトナム社会主義共和国 ハノイ市ベトナム森林科学アカデミー、イエンバイ省ムーカンチャイ県、ソンラ省クインナイ県モンゾンコミューン、ナムディン省スワントゥイ国立公園

概要

森林総合研究所は、森林の防災・減災機能を最大限に発揮させる日本の治山技術を発展途上国などの海外の現場に効果的に適用するために必要な手法を開発することを目的とした森林技術国際展開支援事業(林野庁補助事業)を2020年度(R2年度)から実施しています。同事業のカウンターパートであるベトナム森林科学アカデミー(Vietnamese Academy of Forest Sciences: VAFS)と共同で、2024年2月に現地調査を実施しました。現地では山地班と海岸班に分かれ、山地災害、及びマングローブ防災林に関する調査を実施しました。また現地調査終了後、ハノイにおいてプロジェクトワークショップを開催し、これまでの調査結果について関係者間で共有するとともに、今後のプロジェクトの方向性等について意見交換を行いました。

【山地班】

ベトナム北西部のイエンバイ省ムーカンチャイ地区において、流域における土砂流出実態の把握へ向け、気象水文局の観測所に設置した観測計器からのデータ回収、水深が深くこれまで実施できなかった観測サイトでの流量計測、流域内各所での浸透能試験、雨量計の設置などを行いました。採水試料はハノイVAFSの実験室へ持ち帰り分析しました。また、2023年8月の大雨で群発した表層崩壊の実態について現地での詳細測量と土層観察から調査しました。更に、2009年以来拡大してきた6つの崩壊部の持つ複合地すべりの測量を実施しました。

もう一つの調査対象地であるソンラ省クインナイ県モンゾンコミューンでは、住民のニーズに合わせて森林伐採、利用、管理及び土地利用について現地調査を行いました。具体的には、保護林および生産林からの木材及び非木材林産物利用の制限、非森林土地への転用、収益性を高めるためのトウモロコシやキャッサバの農地からパラミツや、マンゴー、ザボンなどの果樹園への転換等について調査を行いました。

【海岸班】

ベトナム北部沿岸域において、マングローブ植林地の現地森林調査を行いました。ベトナム沿岸域のマングローブ林は、ベトナム戦争の戦禍や魚介の養殖地開発などにより減少した後に、政府主導の下で植林・保全活動が積極的に行われてきた経緯があります。調査はマングローブ林の防災・減災機能の発揮にむけて、植林木の成長や関連要因(植林方法や立地条件、社会条件など)を明らかにし、植林や保全に関する技術指針に反映する狙いがあります。

調査はナムディン省沿岸のスワントゥイ国立公園地域で行いました。森林調査では国立公園内10余箇所を対象に、植林された、または自生しているSonneratia caseolaris、S. apetala、Kandelia obovata、Aegiceras corniculatumを対象に、樹高や幹の太さを測定しました。また、マングローブの防風・防潮機能の発揮には樹木投影面積が規定要因であることから、Structure from Motion(SfM)による解析で投影面積を算定することを目的に、解析用の画像データをK. obovataおよびS. caseoralisを対象に、数個体の写真撮影(約100枚/個体)を行いました。今後さらに調査・解析を進め、防災・減災機能の発揮にむけたマングローブ植林の技術指針や提言につなげていきたいと考えています。

【プロジェクトワークショップ】

現地調査終了後の3月6日、ハノイのベトナム森林科学アカデミー(VAFS)の会議室において、共同研究の成果を共有するためのプロジェクトワークショップを開催しました。ベトナム側からは、VAFSの研究者に加え、森林および防災に関わる行政機関等の職員も出席しました。ワークショップでは、山地災害とマングローブ林に関する現地調査結果を報告し、ベトナムに適用可能なリスクマップの作成手法や、日本の治山施設の導入に関する手法を提案しました。また、プロジェクトの今後の方向性や将来の展開について意見交換を行いました。

2023年8月に発生した表層崩壊の現地調査(イエンバイ省ムーカンチャイ県)
複合地すべりの現地調査(イエンバイ省ムーカンチャイ県)
生産林に区分される植林地(馬尾松、ソンラ省モンゾンコミューン ゾン村)
移動中の船上での調査準備風景(ナムディン省スワントゥイ国立公園)
毎木調査を行ったベニマヤプシキ植林地(ナムディン省スワントゥイ国立公園)
プロジェクトワークショップでの意見交換(ハノイ市ベトナム森林科学アカデミー(VAFS))
河川観測サイトでの流量計測(イエンバイ省ムーカンチャイ県)