国立研究開発法人 森林研究・整備機構 森林総合研究所
REDDプラス・海外森林防災研究開発センター

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研究員現場レポート/海外出張

「森林技術国際展開支援事業」治山技術の現地適用へ向けたベトナム北部山地流域における山地災害調査

岡本隆(森林防災研究領域 治山研究室長)

古市剛久(森林防災研究領域 特別研究員)

鈴木秀典(林業工学研究領域 森林路網研究室長)

山口智(林業工学研究領域 主任研究員)

宗岡寛子(林業工学研究領域 主任研究員)

渡壁卓磨(関西支所 主任研究員)

黒川潮(九州支所 山地防災研究グループ長)

日程

2024年6月10日~27日

出張先

ベトナム社会主義共和国 ハノイ市ベトナム森林科学アカデミー、イエンバイ省ムーカンチャイ県

概要

森林総合研究所は、森林の防災・減災機能を最大限に発揮させる日本の治山技術を発展途上国などの海外の現場に効果的に適用するために必要な手法を開発することを目的とした森林技術国際展開支援事業(林野庁補助事業)を2020年度(R2年度)から実施しています。同事業のカウンターパートであるベトナム森林科学アカデミー(Vietnamese Academy of Forest Sciences: VAFS)と共同で、山地災害及びマングローブ防災林に関する調査を実施しています。

今回は、山地班が中心となり、ベトナム北西部イエンバイ省ムーカンチャイ地区において、土砂流出、地すべり、治山施設、道路に関するデータを継続的に収集し、地域の山地災害リスクの評価を目的として実施されました。特に、降雨量の多い雨季における実態把握やその影響を重視しました。

1. 土砂流出調査

気象水文局の観測所に設置した観測計器のデータを回収して調査流域出口での流出量データを得るとともに、調査流域内の約15箇所で河川水を採取し、河川断面と流速を測定しました。なお流速の測定では、危険防止のため、流量の多い地点では従来のプロペラ式計測ではなく、電波式流速計を用いた間接的計測を行いました。採取した河川水については、ベトナム森林科学アカデミー(VAFS)の実験室で濾過処理を行い、河川に含まれる土砂量を算出しました。これらの調査を通じて、雨季を含む一年間にわたる土砂流出の状況と、土地利用との関係をより明確に把握するための基礎データを得ることができました。

2. 地すべり・崩壊調査

Ho Bon コミューンにおける崩壊地調査では、2023年8月の大雨で尾根に近い位置での崩壊が多発した要因について検討する調査を本年2月の調査に引き続き実施しました。Che Cu Nhaコミューンにおける地すべり調査では、前回の調査時に設置した移動杭の追跡調査を行い、複数地点での地すべり移動量を計測しました。この継続調査により、地すべりの進行状況をより精確に把握し、地域の防災対策に資するデータを収集しました。

3. 治山施設調査

治山施設に関する調査では、正常な状態のふとんかごと、変状が生じたふとんかごの両方について詳細なデータを収集し、変状の要因のほか、施設の長さ、段数、中詰石のサイズ、金網の寸法などを精密に測定しました。この調査により、治山施設の有効性を評価し、今後の維持管理に必要な情報を提供することが可能となります。

4. 道路調査

道路調査では、道路の切土法面崩壊発生地点において土のサンプルを採取し、飽和透水係数、粘着力、内部摩擦角といった特性を測定しました。このデータは、道路の切土法面崩壊の発生状況を再現するための基礎データとなります。また、道路路面からの排水が山地斜面の安定に及ぼす影響を検討するため、道路路面からの排水発生地点におけるガリーの発生状況等を調査しました。

ベトナム森林科学アカデミー(VAFS)での調査打ち合わせ
ムーカンチャイ地区における流量調査.雨季のため河川水の濁度が増している。
電波式流速計を用いた河川流速の計測
Che Cu Nhaコミューンの地すべり
変状が生じた道路沿いのふとんかごの調査
道路排水によるガリー発生状況の調査
道路の切土法面崩壊発生地点における土サンプル採取